第1章 マカロンにまつわるエトセトラ/東峰旭
「あー…まぁ、あれだ。高校生活ももうあと僅かなんだから…その、なんだ、後悔のないよう生きろよお前ら。もっかいやり直してぇって思っても、取り戻せないんだからな」
タバコの煙が鳥養と東峰の間を漂って、2人は煙越しにお互いの視線を交差させた。
やや沈黙があって、後頭部を搔きながら鳥養が口を開く。
「人生の先輩からのはなむけの言葉だ。ありがたく受け取っておけ」
鳥養がにししと歯を見せて笑うと、東峰とはこくりと頷いた。
頷きながら、東峰の中ではある決意が固まりつつあった。
かたやの頭の中では、鳥養に言われた『彼女』の言葉がぐるぐると駆け巡り続けていた。
(傍から見たら恋人同士に見えるのかな。実際にそうなれればいいのに……って願ってるだけだから、今もただのクラスメイトの関係なんだよなぁ)
『後悔のないよう生きろよ』
鳥養の言葉が、の体の中を駆け巡る。
今まで踏み出せなかった、一歩を。
やっぱり今日はどこかネジが緩んでいるのかもしれないと思いながら、東峰とのこれからに、は少しだけ期待に胸を膨らませるのだった。
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日曜日、仙台駅の2階にある大きなステンドグラス前に東峰の姿があった。
待ち合わせの定番の場所だからか、あたりは人で溢れかえっていた。
周囲を見渡してみるも、の姿はまだないようだった。
着なれないおろしたての私服が気になるのか、東峰は落ち着きなく体を動かしていた。
「ごめん、お待たせ!」
東峰の目の前に、可愛らしいパステルカラーのコートに身を包んだが息を切らしながら現れた。
コートの裾からレースのスカートがちらりと顔をのぞかせている。
制服姿しか見たことがないのもあっただろうが、東峰が思っていた以上にの私服姿は可愛らしいものだった。
「俺もさっき来たとこだよ」
私服姿に少しどきどきしながら、平静を装って東峰はに微笑んだ。
「わ、東峰の私服姿って新鮮!そういうの好きなんだ?」
「あ、これ、店員さんがおススメしてくれて」
「そうなんだ?よく似合ってるね」