第16章 愛の言葉を聞かせて/天童覚
「そりゃあ、な。外国に行くんだし。さっき天童はさんが自分の事大好きなんだって言ってたけど。天童だってさんの事、大好きなんだろ」
「アハッ、めっちゃ直球投げてくるね」
「好きだから心配なんだよな」
「そーだね……。フランスに連れて行きたいくらいには」
横で寝てるちゃんが聞いたら、なんて言うだろう。
何もかも投げ出して一緒に行く! なんて言い出しかねないから、本人に言うつもりはないけど。
「…そういう気持ち、ちゃんと言葉にしてあげろよ。お前は時々考えてること分かりにくいんだから。付き合い長いから分かってくれる、なんて思うな」
「……うん」
「フランス行ってもマメに連絡取るんだぞ。天童の方から連絡入れろよ? 間違っても待ちの姿勢でいるなよ?」
「分かってるよ。獅音くんに迷惑かけないように俺も気を付けるって」
俺の言葉が信用ならないのか獅音は何度も念押ししてきた。
そんなに信用ないのかな、俺。
やる時はちゃんとやる男なんだけどな~。
「あ、さん起きた」
むくりと顔を上げたちゃんに、おはよ~と手を振る。
寝起きでぼうっとしていた顔が、徐々に険しくなっていく。
あら。これは怒ってるやつ──と思ったのも束の間、口元を押さえながらちゃんは部屋を出て行った。
「完全に飲みすぎだね、あれは」
テーブルの上に置かれた空になったグラスの数を見れば、どれだけちゃんが飲んだか分かる。
大して強いわけでもないのに、飲みたがる悪い癖がある。
将来アル中になんないかちょっと心配。
「俺見てくる」
言ってちゃんの後を追った。
幸いここの居酒屋にある2つのトイレは男女両方使えるトイレだったから、女子トイレに侵入するという危険を冒さずにすんだ。
鍵が閉まっている方に声をかける。
「ちゃん大丈夫?」
軽くノックしてしばらく待っていると、ガチャリとドアが開いた。
「…覚くん、遅いよ」
そっとのぞいたちゃんの背後は特段汚れてはおらず、どうやら後始末の心配はしなくてよさそうだった。
それでも目の前に立つちゃんはまだ気持ち悪そうな顔をしていた。
「ごめん、学校でちょっと色々と立て込んじゃって」
「そうやってまた誤魔化す」
「え?」