第3章 Let me share the love with u.
十月初旬。
春高の宮城県代表決定戦を間近に控えた頃。
顔を突き合わせてうなり続けている男達の集団がひとつあった。
伊達工業高校バレー部の部室に集まった面々は、それぞれ頭を悩ませていたが、これといった妙案は浮かばないでいた。
皆の前に置かれたホワイトボードは二口の書いた『出し物案』の文字があるだけで、会議開始から一文字も増えていない。
部室には低音の「うーん」という声が響くだけで、言葉を発するものはいなかった。
彼らが何にそんなに悩んでいるのかというと、来る十一月に行われる『伊達工祭』での出し物の内容についてだった。
二日間にわたって行われる『伊達工祭』はいわゆる『学園祭』なのだが、一日目には各部活による出し物が行われる。
毎年どの部活も趣向を凝らした出し物をやっていて、その出来いかんによっては部の威信にも関わるほどの熱の入れようである。
部長の二口の肩には、その重荷がずっしりとのっかっていた。
「…誰かなんかねーのかよ……」
自分の事は棚に上げて、二口はじろりと部室内に視線を送る。
名指しされるのを恐れてか、誰一人二口と目を合わそうとしない。
ただ時間だけが過ぎていく事に苛立ちを隠せないでいる二口の目に、すっと伸びたひとつの腕が飛び込んできた。
「おっ?!黄金川!なんか思いついたのか?!」
トレードマークのおったてた黒い前髪を左右に揺らして、黄金川は目を大きく見開いた。
「ウス!『ドゥン!ドゥン!ドゥンドゥドゥ!ドゥッドゥッドゥッドゥッドゥードゥー』ってやつがいいんじゃないッスか!」
「……黄金川、頼むから日本語…いや人間の言葉を喋ってくれ」
ほぼ擬音しか話していない黄金川に、二口は脱力した。
疲れた顔の先輩を見て、黄金川は申し訳ないと思ったのか、いつものようにグラウンド百周しそうな勢いで謝罪をして言葉を続ける。
「あのっ、あれッス!こう、こういうヤツ!」
黄金川は懲りずに先ほどの擬音を繰り返した。
そして人差し指と中指だけ立てた手を、擬音に合わせて動かした。
その動きを見てようやく、彼が何を言わんとしていたのか二口は理解できたのだった。
「あー…!ポッ●ーのやつな!ダンスな!」
黄金川につられたのか、二口も語彙力少な目で返答する。
他の部員達は頷きながら、なおもブンブン動く黄金川の腕を眺めていた。