第14章 離れてもすきなひと/黄金川貫至
深夜。
黄金川の部屋のドアから廊下に一筋、光の線が漏れ出ていた。
家族が寝静まったなか、黄金川は1人自室でスマホにかじりついていた。
スマホのイヤホンジャックからは白いコードが黄金川まで続いている。
ベッドの上で、黄金川は興奮した様子でスマホ片手にその時を待っていた。
何も彼はいやらしい動画を見ているわけではない。
黄金川が心待ちにしているのは、とある深夜番組だ。
(!! 始まった!!)
スマホの画面にやたら主張の激しい番組タイトルが現れ、番組の司会を務める芸人2人組が登場する。
観客も入って収録されている番組だからか、司会者が登場した瞬間、観客の拍手と歓声で黄金川の耳はいっぱいになった。
食い入るように画面を見つめているものの、何も黄金川はその芸人のファンでも、番組のファンでもなかった。
彼は拍手と歓声の向こう側で微かに流れている歌声を拾うのに必死だ。
この深夜番組のオープニングに、黄金川の恋人であるの曲が採用されたと本人から連絡があったのが、数週間前のこと。
歌手になるという夢を追いかけて上京した彼女は、少しずつ、だが確実にその夢の階段を上りつつあった。
番組のオープニング曲に採用されたとはいえ、彼女の曲が流れるのはほんの一瞬で、画面の左上の端っこに小さく曲名と名前が数十秒表示されるだけ。
それでも黄金川は、自分の彼女の歌が電波に乗ってたくさんの人の耳に触れる機会があるのだと思うと、嬉しくてたまらないのだった。
しかし、彼女が夢の階段を上れば上るほど、黄金川と彼女の距離は物理的にあいてしまっていた。
もう半年ほど、彼女に会えていない。
付き合うことになってすぐに上京が決まって、黄金川はもちろんの夢を応援すべく、少し迷いを見せた彼女の背中を押した。
それは間違ってはいなかったと、黄金川は思う。
けれど寂しいのは隠しようのない事実で。
こうして好きでもない深夜番組をリアルタイムで追いかけてしまうくらいに、黄金川はの事を渇望していた。
「はぁ……いつ会えるんだろ」
会いに行こうと思った時は何度もあった。
けれど彼女は歌のことでいっぱいだったし、黄金川も毎日バレー漬けで忙しい日々を送っていた。