第13章 恋の始まりはすれ違いから/茂庭要
「先輩何回確認すれば気が済むんですか。……とりあえず誤解は解けたみたいなので、私はここで失礼しますね。茂庭先輩、買い出しありがとうございました。それでは、ごゆっくり……」
最後にニヤリと二口みたいな嫌な笑みを浮かべながら、滑津は学校へ戻っていった。
「あ、あの……さん……その、ごめん、とんちんかんな事言っちゃって……俺、てっきり他のやつに告白するもんだと思ってて、それで……」
「……私も、途中からなんか話が噛み合わないなとは思ってたけど……」
「ごめん、鈍くて……」
「ううん。私も分かってくれるだろうって甘えてたから」
「そんなこと、ない」
思わず、言葉とともにさんの手を握る。
さんの告白、嬉しかった。
胸が高鳴るってこういうことなんだって、初めて分かった。
──そう、素直に気持ちを口にすればいいだけなのに、うまく言葉が出てこない。
俺、簡単に「素直に気持ちを伝えたらいい」なんて言ったけど。
それってどれだけ難しいこと言ってるのか、今分かった。
言わなきゃ伝わんない。
そんなの頭では分かってんのに。
金魚みたいに口がパクパクするだけで、肝心の言葉がひとつも出てこない。
勇気を出せ、茂庭要。
漢を見せろ、茂庭要!
自分で自分を奮い立たせて、精一杯の勇気を振り絞る。
「お、れも、……好き!」
声なんてかすれ気味で、言葉にも詰まって、まったく締まりのない返事だった。
だけど、そんなのひとつも気にせず、さんは満開の花みたいな可愛らしい笑顔を俺に見せてくれた。
「ありがとう、茂庭くん」
また一粒、さんの頬を涙が伝っていった。
だけどその涙は、さっきとは違う輝きを持っていた。
―fin─