第13章 恋の始まりはすれ違いから/茂庭要
さんの手にある白いリボンの巻かれた赤い箱。
さっきの車に轢かれてしまったのか、真ん中がぐしゃりと潰れている。
そこから黒っぽいような茶色っぽいような中身が少しだけはみ出していた。
「あ……もしかして、それ、バレンタインの?」
俺の言葉に、さんはバッと顔を上げて、俺を見た。
じっと見つめられて、また心臓がドキッとする。
でもさんの顔はゆっくりと悲しそうな顔になって、しまいには声を上げて泣き出してしまった。
何か悪い事を言ってしまっただろうか。
気付かぬうちに傷つけてしまっただろうか。
「え……あ、ご、ごめん……」
何が原因か分からない。
だけど俺の口は勝手に謝罪の言葉を述べていた。
ふるふるとさんは首を振る。
どうやら、俺が原因ではないと言いたいらしい。
ちょっとホッとしたものの、泣き止まない彼女になんと言葉をかけてよいのか分からない。
バレンタインのプレゼントがダメになったことが、よほどショックだったのだろうか。
きっと好きなやつに告白しようと、準備してきたんだろう。
……好きな、やつ。
さん、好きなやついたんだ。
思考がそこまでいくと、何故か胸がチクリとした。
なんだろう、この胸のざわつき。
顔も知らないさんの想い人に嫉妬してる自分にビックリしつつも、俺はさんを励まそうと言葉をひねり出した。
「……バレンタイン、渡すところだったんだね」
涙を流しながらも、さんがこくりと頷く。
こんなに泣くほど渡したい相手って一体誰なんだろう。
ここまで人に想われるなんて、羨ましい限りだ。
「手作り、かな」
またこくんとさんが頷く。
「そうか……だったらなおさらショックだよな……」
また、さんはこくんと頷いたけれど、先ほどより頷きは小さかった。
駄目だ、傷口を広げてどうする、俺。
「で、でもさ! チョコ無くても、気持ちを込めて想いを伝えれば、きっと上手くいくよ!!」
何も確証なんてない。
さんが相手とどんな関係かも分からない。
だけど、彼女を慰めたくてとにかく必死だった。
上手くいくって、背中を押してあげたかったんだ。