第12章 星を見る少年/岩泉一
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季節は巡り、朝晩の冷え込みが少し厳しくなってきた。
制服のジャケットの下にパーカーを着込んで、少しでも寒さに抗おうとしている。
早朝の駅構内、吐き出す息は白い。
流れていく白いもやを目で追った先に、大きなポスターが貼ってあるのが目についた。
昨日までは無かったはずだ。
ポスターには一面に星空の写真が掲載されている。
それもただの星じゃない。流れ星の写真だ。
「獅子座流星群観測ツアー……」
ポスターに書かれた文字を読み上げる。
ピンク色の書体が女性受けしそうだ。
ふと、さんの顔が浮かぶ。
結局、ばあちゃんが退院した夏の終わり頃からさんには会えていない。
半袖からまた長袖に戻っても、彼女の笑顔を見ることは叶わなかった。
-“縁があれば”ってやつだな-
松川の言葉が、ぐるぐると頭の中を回る。
もう半分諦めていた。
縁が無かった。それで俺の片想いは終わる。
努力しようにもその努力の仕方が分からねぇまま、時間だけが過ぎていった。
だけどこうやってさんの記憶が浮かんでくるものに注意をひかれるくらいには、まだ俺の中で気持ちは燻っているようだった。
ポスターの前に置かれたツアーのビラを1枚手に取って、鞄にしまい込む。
いつまでも未練を断ち切れねぇ自分の女々しさに溜息をつきながらも、いつも電車を待つ定位置に向かった。
他の学生や社会人より少し早い時間だからか、ホームの人影は少ない。
暇つぶしを兼ねて、さっきのビラを眺める。
駅からバスで1時間の場所にあるリゾート施設で、獅子座流星群を観る。
星のガイドがついて解説もしてくれる。
観察場所は山頂だが、ロープウェーで簡単に上がれるらしい。
ビラの表にはぴったりと寄り添って夜空を見上げるカップルの後ろ姿が載っていた。
-ロマンチックな夜を過ごそう-なんて宣伝文句に歯が浮きそうになる。
さん、こういうの喜びそうだ。
あの人と一緒なら、なんて考えがよぎって頭を振った。
もういい加減諦めねぇと。
そう気持ちを締め直した俺の耳に、ヒールの音が飛び込んできた。
カツカツと規則的なリズムを刻むその音に、消してしまおうとしていた淡い期待が立ち上る。
“縁があれば”
自分の運を試すように、ゆっくりと音の方へ目を向けた。