第12章 星を見る少年/岩泉一
「初枝さん、本当にはじめ君の事が大好きなんだろうね。顔を合わす度に、嬉しそうにはじめ君の話をして下さるの。おかげですっかりはじめ君のことに詳しくなっちゃった、私」
「…俺の知らねぇ間に俺のこと知られてるってのは正直複雑っす」
「あ…そうだよね。ごめん、私ペラペラとはじめ君の事……」
初枝さんから毎日のようにはじめ君の話を聞いていたから、私はすっかりはじめ君の事を知ってるつもりでいるけれど。
はじめ君からすれば、私はついこの間顔見知りになっただけの人間だ。
ほぼ他人の私に、自分のことをあれこれ知られてるの、気持ち悪いだろうな……はじめ君の年頃なら尚更。
考え無しに発言してしまったことを悔いてももう遅い。
なんとか少しでも彼の気分を晴らそうと、鞄から紙袋を取り出した。
「……はじめ君の個人情報、初枝さんから聞いて良かったこともあるの。きっと気に入ってくれると思うんだけど…」
紙袋を手渡すと、はじめ君はおそるおそる中を覗きこんだ。
中の物を見た瞬間、面白いくらいはじめ君の顔がぱあっと明るくなった。
「コレ! 発売日に即完売したやつ!」
紙袋から取り出して、子供みたいにきらきらした目ではじめ君が見つめているのは、黒地に金色のゴジラのシルエットが大きくプリントされたスマホカバー。
初枝さんから、はじめ君が欲しかったのに手に入れられなかった、という話を聞いたことがあったのだ。
あちこち探し回って、ようやく見つけたものだった。
「はじめ君にプレゼント」
そう言うと、さっきまで輝いていたはじめ君の目がいつものぶっきらぼうな目に戻る。
急に手渡されたプレゼントに戸惑っているみたい。
「何で俺にくれるんすか?」
「色々と、ね。この間助けてもらったお礼とか、誕生日も近いからそのお祝いも兼ねて」
お礼がスマホカバーでいいのかな、なんて少し思ったんだけど。
みるみるうちに嬉しそうな顔に戻っていくはじめ君を見たら、選択は間違ってなかったと確信した。
「あざっす!!」
本当に嬉しそうにしてるから、可愛いなぁなんて思う。
普段どちらかというとムスッとして見えるはじめ君だけど、子供みたいに嬉しそうな顔をしてるのを見ると、そのギャップにちょっとだけドキッとした。
…今のドキッて、何の『ドキッ』なんだろう。
この時はまだ、その正体に気が付いてはいなかった。