第12章 星を見る少年/岩泉一
岩ちゃんと呼ばれた男の子も、及川君も、同じように否定する。
「そう、なの? ごめん、てっきり喧嘩はじまっちゃうと思って」
「岩ちゃん言葉遣い荒いもん。お姉さんがそう思うのも無理ないよ」
星が飛び出しそうなくらい爽やかな笑顔で及川君がそう言うと、ハンカチの少年がちっ、と舌打ちをする。
「誰のせいだと思ってんだよクソ川」
「またクソ川って言ったぁ」
及川君の言うように、確かに少し乱暴な言葉を使っていたけれど、それが彼らの常なのだろう。
2人の間の空気をよくよく観察すれば、険悪な空気は微塵も無かった。
「またやってるよ」
「懲りねぇよな及川も。お前付き合い長いんだから、ちょっとは学習しろよ」
及川君の後ろから歩いてきていた2人組が、及川君達のやり取りを呆れた顔で見ていた。
及川君も長身だけれど、後から来た2人も、随分と背の高い子達だった。
「松っつん、俺より岩ちゃんの味方?! クソ川なんて呼ぶ方が悪くない?」
「“クソ川”って呼ばれるようなこと、したんだろ」
「えっマッキーまで岩ちゃんの味方すんの? 俺の味方ゼロじゃん!」
4人集まって賑やかに話を始めると、私は完全に蚊帳の外になった。
同じクラスなのか部活が一緒なのか。仲良さそうに談笑する彼らの邪魔にならないように少し距離を置く。
ハンカチを貸してくれた彼に、助けてもらったお礼まだちゃんとしていないけれど。
タイミングを完全に逃してしまった。
盛り上がってるところに水を差すのも悪いし。
どこか話が途切れたタイミングで声をかけよう。
なんて思って、少し離れたところで彼らの様子をうかがっていたのだけれど……。
結局電車が来るまで話し込んでいたから、声をかけることが出来なかった。
到着した電車に乗り込んでいく彼らの後ろ姿を見送る。
本当は私もこの電車に乗るのだけれど。
さっきの今で同じ電車に乗るのは気まずい。
乗って違う車両に移動するのも、なんだか感じが悪い気がして、私は1本電車をやり過ごすことにした。
発車のベルが鳴った時、閉まるドアの向こうにいるハンカチの子と目が合った。
彼の口が小さく「あ」と言った気がする。
ふと彼の視線を辿ると、私の手元に握られた青いハンカチに行き着いた。