第11章 新年のご挨拶/西谷夕
「…なんだよ、まだ寒いのか?」
私が軽く睨みつけた意味を見事に取り違えてくれた夕が「寒がりなヤツだなー」なんて言って、自分の耳当てを私の耳につける。
夕の顔がゆっくり近くなって、遠くなった。
ほんの数秒のことなのに、スローモーションの映像みたいだった。
きゅうと苦しくなる胸を誤魔化すように、ダウンの袖をぎゅっと握る。
「おし、やろうぜ!」
「ん」
手にした羽根を上に放り投げて、夕が綺麗なフォームで羽根を打った。
カン、といい音がして羽根は真っ直ぐに私の所へ飛んでくる。
手加減しているのかスピードはそんなに速くない。
バッグハンドで羽根を突き返し、ゆっくりと宙を舞う羽根を見送る。
「もうすぐだね、春高」
「ああ。早く試合やりてー」
夕が打ち返した羽根はまたもやゆっくりと私の元に舞い戻る。
勝負といった割には緩やかな羽根の動きに、会話する余裕さえ生まれてしまう。
「相変わらずメンタル強いね、夕」
「そうか? 普通だと思うけど」
「夕の『普通』は『普通』じゃないからなぁ」
昔からずっとそうだ。
プレッシャーなんて言葉知らないんじゃないかってくらい、夕は精神的にタフだ。
学校の発表会ですら緊張して吐いたことのある私からすると、すごく羨ましい。
「春高、応援行くね」
「マジか! サンキュー!!」
「お母さんなんか、気合い入りまくりでさ。烏野商店街まで行ってオレンジのはっぴ買ってきてたよ」
「んちの家族もきてくれんのか。心強ぇな!」
あまりにも嬉しそうな顔をするものだから、私もつられて口元が緩んでいく。
言葉も、態度も、いつも自分に正直で嘘がない。
そういうところ、すごく好きだ。
また胸がきゅっとなる。
思いを打ち消すように、強めに羽根を打つ。
「それにしても、さすがにお正月は休むんだねバレー」
春高直前までやるのかと思ってたから、そう口にした。
それでなくとも年中バレー馬鹿なんだけど。
「テストと同じだぜ。直前にバタバタしてもしょーがねぇ」
強めのストレートを優しく受け止めて、夕の打ち返した羽根はまた緩やかな軌道を描いた。
「それ誰かの受け売りでしょ」
「何っ! 何で分かった!?」
「だって夕、勉強でバタバタしたことないじゃん」
「んなことねぇ! 夏の期末は死ぬ気でやったぞ」
「そうだっけ…」