第10章 これからの話をしよう/天童覚
天童君の行為を非難するように彼を睨み付けると、ますます彼の笑みは深くなっていった。
その笑みの意味は何?
何故そこで笑えるの?
…天童君のことがますます分からなくなる。
「…そうだね。じゃあ、付き合う?」
「馬鹿じゃないの?!」
いきなりキスされて、そんな告白(なのかどうかも怪しいけれど)されて、だんだんと腹が立ってきた私は天童君を突き飛ばして、資料室を飛び出した。
仮に、天童君が私のことを好きだったとしても。
「じゃあ付き合う?」なんてセリフで付き合えると思われてることに腹が立った。
高校生になっても誰かと付き合ったことなんてなかったけど。
そんな風に言われて付き合うなんてまっぴらごめんだ。
…恋愛に夢見すぎなのかもしれないけれど。
資料室の整理はまだ半分も終わっていなかったけれど、さすがにいくら「マジメ」な私でも、あの部屋に戻る気は無かった。
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天童君の意味不明な言動に気持ちはモヤモヤしたままだったけれど、ひとまず部活に向かう事にした。
ジャージに着替えて体育館のそばで作業をしている部員の元へ小走りで駆け寄ると、私に気が付いた副部長と目が合った。
「さん。困るのよね、ただでさえ時間ないのに遅刻とか」
「すみません」
副部長には何かと厳しく当たられるんだけど、今日は攻撃できる材料があるからかいつもよりいきいきしているように見える。
顔を合わせて開口一番がこれだもんな。
事前に遅れることは先輩に伝えて了承もとってあるけれど、そういうの副部長にとっては関係ないんだろう。
「連絡はあったから、そのくらいで。それより作業進めてもらえると嬉しいな」
部長が間に入ってくれたから、副部長はすぐ引き下がった。
先輩達に一言謝罪をしてから、作業に加わった。
今度演劇部が上演する予定のお芝居は、白雪姫をモチーフにしたお芝居で、現実の世界とお話の世界と2つの世界が出てくる設定になっている。
だから背景や小道具も、お城や森といったお話の世界の中のものと、主人公の住んでいる部屋や学校といった現実の世界のものとを用意する必要があって、演者含めて部員総動員で制作にあたっているのだ。