第2章 栗より甘い、/青根高伸
「でも結局、何にもなかった。上目遣いで見つめてみたり、小首かしげてみたり、色々したんだけど」
「……それ、逆に狙いすぎてダメだったんじゃねぇの?」
その時の青根の気持ちは分からないが、先へ進みたいが意識しすぎて空振ってそうなのは容易に想像がつく。
女の子からグイグイ来られると、逆に引いてしまうってのは自分にも経験があるから分かる。
「……そうでもしないと、青根くん手出さないと思って」
「…まぁ、気持ちは分からんでもないけど」
口をへの字にして、視線を落としてしまったの気持ちもよく分かる。
付き合ってもう半年は経とうというのに、このカップルは最近ようやく手を繋いだところらしい。
健全な高校生の男女が半年も付き合っていれば、キスの一つや二つ済ませていてもおかしくはないだろう。
から話を聞いているだけの俺でも、二人の進展にはもどかしさを感じずにはいられない。
当事者のにしてみれば余計にもどかしいだろう。
「……青根くんとは、合わないのかなぁ……」
ぽつりと、が漏らした言葉に俺は少し驚いていた。
いつもこうやって愚痴を言いにくるものの、ここまで深刻そうな顔をしているを見るのは初めてだった。
いつもならなんだかんだ言いながら、「そんなところも好きなんだよね」と惚気だすのに。
これは青根のケツを叩いてやらないと、と思った時だった。
その当人が、の後ろに佇んでいるではないか。
はまだ青根に気付いていないようで、なおも青根の愚痴を続けて口にしている。
青根は黙ったまま、それをじっと静かに聞いていた。
表情はいつもの仏頂面のままなのが怖い。
彼女が自分の愚痴を口にしているのを見るのは、あまり気分のいいものではないだろう。
俺はどうにかしての口を閉じさせようと思った。
「あー…、あのさ、…」
「何?」
「いや、言いにくいんだけど、その」
「何よ、ハッキリ言ってよ」
「青根、後ろにいる」
「……えっ?!」
驚いてが振り返った先には、先ほどと変わらない表情で静かに青根が佇んでいた。
は気まずそうに、青根を見上げた。
「…あ、青根くん…ごめん、えっと…」