第1章 ちいさなちいさな侵入者。
「……えっと。」
ふにゃふにゃしたポテトのような気の抜けた空気に、今ならと私は声を出してみる。
「ドンキホーテ・ドフラミンゴ。」
「……え?」
思わず間抜けな声が出た。
だって、あんなに警戒心剥き出しだった男の子がいきなり名乗るなんて誰が思うんだよ。
私はぽかんと小さく口を開けて相手をじっと凝視してしまうが、はっと我に返るとすぐに視線を横にずらした。
「名前、名乗ったんだからお前も名乗れ。」
待って、どういう状況だ……?
よく分からずにおどおどとしていると、そんな私に痺れを切らした男の子は名乗れって言ってるだろっ!と此方に先程の銃を向けたと思いきや振りかぶって投げてきたものだから、驚いた私は反射で目を瞑り、数秒後にやってきた鈍痛に尻餅をついて頭を抱える。
「っいったぁ。」
「さっさと答えろ。」
男の子はふん、と鼻を鳴らすとそう一言私に言葉を突き刺した。
こいつ、この……。
さっきは銃持ってたから手を出せなかったけど、黙っていればずけずけと、なんか言いやがって……!
銃さえ持ってなければ……!
お前なんか、お前なんかっっ……!
「◯◯◯◯、です。」
「おう。」
先程から私の中で憤りと怯えとで葛藤があったのだが、たった今勝敗がついたようだ。勝ったのは、見ての通りビビりな私である。
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で、なんだかんだでかくかくしかじか。
よく分からないけど、よく分からないうちにことは運び、なんかよく分からないけどこの男の子、ドフラミンゴくんは私の家で一緒に暮らすことになりましたこのやろう。
ふざけんなよ、ほんとに大学生独り暮らしの貧しさなめんなし。くそ、バイトだ、バイト。こうなったらバイトするしかない。
「この服ごわごわするえ。」
「頼むからそれ着てお願いします。」
「嫌だえっ!こんなの!」
もう嫌だはこっちだよ……。
今月の生活費大丈夫……なわけないよねー。知ってました。
もう、やだ。