第1章 ちいさなちいさな侵入者。
「◯◯ちゃん、ご苦労様。もう大丈夫だから今日は帰りなさい。」
品物の整理を任された私は現在店内を周りながら仕事をしていたのだが、上から自分の名前を呼ばれたかと思えばそんなどこか落ち着く声音で言葉が降ってきた。
「え、でも……。」
「いいのいいの、若い女の子は早く帰らないと危ないだろ。」
さ、ここは俺がやっておくから。そう半ば無理矢理その場から離された私はほけーっとしながら、奥で荷物を取ってくる。
「あの、ありがとうございます!それでは、店長も無理しないでください。」
「あいよ、まかせな。◯◯ちゃんは帰り道気をつけてな。」
そんな言葉を交わした後、頭を下げてバイト先のコンビニを出る私。
大学の友達の話ではとても厳しいと聞いていたのもあってか、予想外の優しさにバイトするのが楽しくなっていくばかりである。
で、家の方だが、
「ただいまー。」
「お腹空いたえ。何か作れ。」
挨拶ぐらいしろよ挨拶ぐらい。と内心悪態を吐きながらも、手を洗って早速夕飯の支度にかかる私は偉い、と思いたい。
なんだかんだ言いつつも、ドフラミンゴくんがこの家に来てから一週間が過ぎようとしている。あっという間だった。
しかし、ありがとうどころか、挨拶もまともに言ってこないドフラミンゴくんに元から頭を抱えていた私は大学の授業の内容が全く入ってこない程度にはストレスを感じていた。
ぼーっとしながら適当に作った炒めものを皿に盛り付けてテーブルに持っていく。箸、コップ、お茶、オレンジジュース、野菜炒め、取り皿、ご飯。3往復か、4往復かしてやっとテーブルに物を運び終えた私は、達成感とともに席につく。
「いただきます。」
私が箸を持ち両手を合わせてそう口にすれば、なんとそれを見たドフラミンゴくんは真似をして同じように、いただきますと口にして食べ始めた。
気まぐれだろうが、なんだろうが少し嬉しくなってしまったのは仕方のないことだと思う。なんせ、ここに来てそういう姿勢というか態度を見せたのはこれが初めてなのだから。
少しはなついてくれたんだろうか。なんて淡い期待を持ちながら野菜炒めを口に運んだ。