第1章 ちいさなちいさな侵入者。
まるで喉を誰かに絞められているような、いやこの場の空気そのものが鉛を凍らせたような圧迫感になって波のように私の体に押し寄せてきた。
「動くな。」
私に向けられた銃口は月明かりに照らされて黒く光っている。だが、それ以上に此方に鋭い眼光を向ける男の子のその瞳はぎらぎらと、まるで獲物を捕らえる直前の肉食獣のような、そんな恐ろしい顔をしていた。
私の額には脂汗が滲み出し、背中には嫌な汗がつぅ、と伝う感触がする。と、同時にかちゃりと子気味の良い軽い音を出す銃。
な、に……これ。
しかし、次の瞬間、今までの圧迫感も感情も何もかも持っていくような間抜けな言葉に自身の頭は真っ白になる。
「お前、悪魔の実の能力者かえ……?」
「……は?」
思わず口に出た嫌悪感丸出しの声。
しまった、と口を両手で押さえるが時既に遅し。
私の顔の横を物凄い速さで風圧を纏った何かが通り過ぎたのをひしひしと感じた。頬に集まる熱。熱い熱い熱い。思わずそう叫びたくなるような熱さだ。
少し予想外だったその鋭い痛みにただただ怖くて涙が出た。
「っ、泣いたって無駄だえ!何の目的なんだえ!」
「ち、ちが……、私、知らない。」
私の態度に少しの焦りが見えた頃だ、タイミング悪く家のインターホンが鳴る。この場の雰囲気に余りにも似合わないそれは、一気にここが自分の家なんだということを実感させられた。
で、出なきゃ……。
「……あ、あの私少し……あの行ってきてもいいですか。」
私の緊張感のないそんな質問に目の前の子供は、やはり子供なのか、しょうがないえ、と一言言うと静かに銃を降ろす。うわぁ、良かった。これで、逃げるつもりか!なんて言われた暁には私終わってたよ。多分。
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私は宅配便のお兄さんに怒声や銃の発砲音のような音がしたと訝しげに心配されたが、なんとかその場を遣り過ごすことができたようである。そしてそれはこちらも同様だった。
と、いうのも先程私がこの位置に戻ってきてから、なんだか場の雰囲気が、ふよふよと漂う雲の如く不安定なものに変化している気がするのだ。
私の気のせい、ではないような気がする……。