第1章 ちいさなちいさな侵入者。
ボロボロの洋服に身を包むその男の子は年齢に見合わない難しい顔をしている。
私は警察に通報しようと家の電話に手を伸ばし欠けて、止めた。
この時間から言い方はあれだが、警察のお世話になるなんてごめんだ。壁掛け時計の針は7時半を指していて、明日は普通に平日なのだから。
それに、こんな子供相手に身の危険を感じる程私は弱くなんてないし。
なにより、先程電話に手を伸ばし欠けた私の耳に入ってきた言葉になんだか可哀想になってしまったのだ。
殺さないで。そう寝言で呟いた男の子の声が余りにも悲痛な叫び声に聞こえてしまって他人だというのに、ただの寝言だというのに、それなのにどうして胸が苦しくなってしまったのだろう。
青ざめた男の子の額には幾つもの脂汗が滲んでいて、その顔は何かに怯えるように歪められている。
取り敢えず、事情を聞かなきゃダメだよね。
そう思った私はしゃがんで恐る恐る男の子に手を伸ばす。
ぱしん、と部屋に響く乾いた音と共に伸ばした掌に段々と熱が集まっていくのを感じた。
目の前の男の子は山猫のような警戒心を露にした表情で此方を睨んでいる。
「お前、誰だえ……!」
警戒と憤りが込められた男の子の怒声に思わず肩が跳ねた。
「っ、此処はどこなんだえっ!」
部屋をきょろきょろと見回して、そう声を荒げる目の前の男の子にひゅ、と喉がしまってしまう。
予想の遥か上をいく男の子の反応はどこか世界の違う国の言葉のようで、なんて話しかけたらいいのかも分からずに私は唖然とその場に座り込む。
「聞いているのかえっ!」
私の反応に痺れを切らした男の子は遂に、発狂とも取れるような叫びに近い怒鳴り声を上げる。
「そんなの……自分で、入った癖に……。」
意味が分からないのは私の方だというのに、山猫のような警戒心と憤りの陰に怯えるような色の瞳が見えて、なんだか更によく分からなくなってしまった私は震える声でそう言った。
「っ、ふざけるなえっ!!しらばっくれるつもりかえっ!」
そう歯軋りして声を荒げる男の子に私は内心冷や汗を欠きつつ、数分前の自分を殴りたくなってしまったのは仕方ない。
だって男の子の手にはどこから出したのか分からないけれど銃が握られていたのだから。