第1章 ちいさなちいさな侵入者。
ああ、今日も疲れたなぁ、なんて独り溜息を吐きながら私は重いリュックに顔を歪める。
大学帰り、すっかり暗くなってしまったいつもの道は遠くに見える街路灯のオレンジ色の灯りだけが頼りだが、その頼りの灯りはちかちかと点滅し、今にもその役目を終わらせそうな感じが否めない。
私は右手につけた腕時計の針がとっくに7時を過ぎてしまったのを見て、右も左も殆ど真っ暗な道の地面を早足で蹴る。
ふと、街路灯の頼りない灯りの横にある小さな公園が視界に入り、手汗が滲んだ。
この公園暗くなると怖いんだよね……。
怖い怖いと思いながらもその公園に毎度毎度視線を走らせてしまう私は馬鹿なのか阿保なのか、そんな疑問も吹っ飛ぶぐらいには身の危険を感じる公園を前に加速した足。
いつの間にか走っていたのだろうか。
私はもう見えなくなったあの公園にふぅと一つまた溜息を吐くと、今度こそどの建物にも足を止めずに早足でアパートを目指して歩きだした。
―――――――――――――――
かん、かん、かん、と所々錆びてしまった階段を上り、ポケットに入っていた鍵を急いで取り出して202と書かれたドアの鍵穴に突っ込んだ。
ガチャンと鍵の開いた音に急いで中に入る。
ドアの鍵とチェーンロックまで掛け終えて、私は安堵の溜息を吐き出した。
安心したらお腹空いたなぁ。
ぐるぐると唸る自身のお腹を擦りつつ、私は靴を脱いで洗面所で手を洗う。そうして、荷物を置こうと自分の部屋のドアノブに手を掛ける。
「……は。」
なんか知らない男の子がカーペットの上でぐーすか寝てるんだけど、あれ?
ちょっと待ってよ。
い、意味分かんないぞ。
なんでなんでなんで………ていうか誰ですか。
カーペットの上で倒れるように眠っている小汚ない男の子に意味が分からずに叫びそうになってしまった私がまず最初に自分の記憶を疑ってしまったのはきっと間違ってない。多分。