第4章 少しの歩み。
綺麗な鼻筋や唇、憂いを含む瞳。
ドグッと心臓が跳ねた。
「旦那様…です、よね?」
すっと頰を撫でられ、困惑したように眉を下げみつめてくる金色の瞳。
ごくりと、生唾を飲む。
「そうだよ、偽物に見えた?」
眉間を寄せる姿にクスッと笑うと目を丸くしていた。
はそろりと肩に手を起き唇を重ねる。
足が止まると、くたりと寄りかかる。
「旦那様なら、この耳や髪を見て嬉しい言葉をくれたりしないのですよ、偽物さん。私の旦那様は、あの、綺麗なくのいちさんが大好きなのですよ…だから、騙されてあげますね。私は獣ですから…当然です…人にはなれません、から」
あなたの変化は失敗ですよ。と薄っすらと微笑んだ瞳は泣いているようだった。
「好きだよ、輝く柔らかな指通りの白髪も、その耳も尻尾も愛らしい、狼の姿も凛々しく逞しく美しいと思ってるよ」
「その顔で、声で仰られると、旦那様に褒められているようでむず痒いですね」
「は、旦那様が嫌い?」
「いえ、好きですよ。私の初めての外の世界で、初めて憧れた愛や恋やレンアイを向けた人ですから、迷惑という概念が無かったので、旦那様に沢山不快な思いをさせただけでしたが」
驚いた答えに、彼女の部屋の戸を開ける。
薄暗い部屋の隅にある座布団に座りを膝に乗せて話を続けた。
こんなに彼女が話すことが無かったから。
手を繋ぐとは、照れ臭そうに微笑んでいた。
「手を繋ぐデートとか、大好きが繋がるキスとか、大切な人を知るえっちなこと、全部旦那様とするんだと思っていたんですよ、毎日ドキドキして嬉しくて恥ずかしくて楽しくて」
微睡む様に目を閉じる。
「恋でしたよ、あれは。でも、夢だったんですよ。私は知らない人に弄ばれ、旦那様の側を離れ、全部おしまいなんです。何一つ、叶わなかったんです。初めて、男と人の裸に触れた日は怖くて怖くて…助けてもらった記憶も無いのに旦那様の名前を必死に呼んでいたんですよ」
涙が流れる。
紅の言葉を思い出した。