第1章 泣き虫な子。
「んっ!んんぁああっ、そこ、ぃやっく、るし」
便器の様に吐出され、匂いが頭をおかしくさせる。
この部屋は、薄暗く懐かしい。
ダンゾウ様ならどんなふうに触れてくれるかな、なんて考えながら笑ってしまう。
ダンゾウ様なら触れない。
ただ、愛でて綺麗なままで居させてくれただろうから。
旦那様は触れもしなかった。指一本。
それは愛ではなく、拒絶だと解っていた。
「っく、ぁんああああっ」
それに、彼には大切な人が居るのを知っていた。
____のはらリン。
あの人と居る彼は幸せそうだった。
私がそれを壊してると知った時、この結婚はひろめてはならないと理解した。
彼の邪魔をしてはいけないと。
「あっー…っはぁっ!」
吐出された感覚に眠気が襲う。
次がまた来る。
もう少し眠りにつきたい。
ナルトはちゃんと食べているだろうか?カップ麺だけじゃないか心配。
綱手様は心を痛めていないだろうか?
私はちゃんと、ここで、生涯此処に大人しくいます。
ちくりとする腕の感覚に視線を向けると肩に刺さる注射の針が見えた。また、わけわからなくなるのか、と思いながら意識を手放す。
ふさりふさり心地よく耳の裏を撫でられる感覚に目が覚める。
女の人に撫でられていたらしい、私を飼い犬と勘違いしている人だった。
心地良い指の動きと手の温もりにふたたび目を閉じる。
ダンゾウ様に拾われた時もこんな気持ちだった。
「ふふ、ふふん、ふふ、ふ、ふふふ」
鼻歌が聴こえ、膝に擦り寄る。可愛いわねと撫でられ身を任す、指輪の後ももう消えた。
代わりに手足汚らしく汚れる日々。
待機所にいると、耳を引っ張られ目が覚める。
「何するの!?私の犬よ!!」
「いっ、たぁぃ」
「お前の犬じゃない、さっさと立て!つぎの客だ」
私の犬を返してと叫ぶ人を見て、ぺろりと頬を舐める。
彼女は泣きながら雇い主を離してくれた。
また、始まる悪夢にじゃらりじゃらりとあしおとに耳を貸す。
人骨の上を歩く方がまだマシかもしれないと、思いながら。