第8章 月が意地悪に笑う
「誰にも?じゃあ、なんで僕には話したのさ?」
なんで…?好きな人に全部知って欲しかったのもあるし…
「蛍は、簡単に 可哀想 って言わないでしょう。簡単に 辛かったね って言わないでしょう。別に同情してほしい訳じゃなかったから。その言葉を言われるたび惨めになっていく感じがするんだよ…。可哀想になんかなりたくなかったから…。でも、それでも蛍に知って欲しかったのかもしれないね。」
「なにそれ。もしさ、僕が可哀想だね。って言ったらどうしてたのさ?」
「…んーどうしてたんだろうね?やっぱり自分は惨めな人生だった、って思うのかもしれないね。」
そう言われたらきっともう誰にも言わないで隠し続けている人生になると思うよ。
あたしは雰囲気を変えるため
ん~!と手を上げ背筋を伸ばした。
「…僕は…由佳がそんな体験をしていても、今の由佳しか知らないし、そんな事を経験した今の由佳の方が僕はいい…と思う」
そんなにあたしを喜ばせてどうするの…?
でも嬉しいものは嬉しい
「蛍、ありがとう!あたしも蛍がいいって言ってくれる今がいいな!」
「バカじゃないの…。もう遅いんだから寝るよ!」
そう言うと蛍はフイと背を向けて
早く中はいるよって優しく言った。