第13章 【切】自家撞着の行末/治崎廻
《余談》
人から向けられる敵意や悪意が分からないワケじゃ無い。人は自分にとって害のある人を悪い人だと定めるけど、ある人が定めた悪い人は他者からみればいい人でもある。そう思える人が私には多かっただけ。
私の事を邪険にしつつも、傍においてくれた廻くんに惹かれたのは、多分初めて廻くんと逢った時から。血に染まる廻くんが凄く悲しそうで、苦しそうで、彼の心に寄り添いたいと子供ながらにそう思ってしまった。
歳を重ねる毎に廻くんへの気持ちはより一層特別なモノに変わっていった。世間一般ではヤクザと呼ばれる人だけど、私にとっての廻くんは廻くんでしかなくて、ヤクザだとかカタギだとか、そんなの関係無かった。
〝私も連れてって〟
その言葉を聞かんとするように私の首を絞める廻くんを怖いとは思わなかった。私はいつだって廻くんの味方だよ。そう言って廻くんを抱き締めたかった。けど、突然目の前が真っ暗になり、声を出そうとしても声も出なくて、廻くんの気配を感じるだけ。これが廻くんの個性なんだと初めて知った。このまま廻くんと別れたくなくて必死に廻くんにしがみついた。
「個性が無くなればお前はただの餓鬼だ。もう二度と俺に触れる事は無い。」
廻くんの言葉の意味が理解出来なかった。個性は生まれ持ったもので、突然無くなったりはしない。けど、廻くんは冗談を言うような人間じゃない。廻くんに触れる事が許されるこの個性は私にとっての宝物だ。どんなに雑に扱われようが疎まれようが構わない。廻くんに触れられるなら。そう思った最中、私の身に突如異変が襲った。反響する銃声。突如体を貫くような痛み。その痛みが一瞬にして体中を駆け回った。そして、個性に目覚めてから常に個性が発動されている状態だった私は個性が発動出来なくなっている事に気付いた。必死に廻くんの足にしがみつくが、個性が発動出来ない今、廻くんは私に触れられた事で蕁麻疹が出てるのかもしれない。そう思うと凄く怖かった。目が見えない事より、声が出ない事よりも廻くんの特別じゃ無くなる事が怖い。