第13章 【切】自家撞着の行末/治崎廻
「廻くん、おかえり。」
「その名前で呼ぶな。」
我が家のように八斎會の事務所で寛ぐ遥香。見慣れてしまったといえばそれまでだが、遥香は八斎會の人間でも無ければヤクザでも無い。カタギの人間だ。あの日、触れても蕁麻疹が出ない人間という存在がただ単に物珍しく、また、返り血を浴びた人間を前に臆する事の無い肝の座った餓鬼に興味が湧いた。ただの気紛れで連れて帰った遥香は以降、我が物顔で八斎會を頻繁に出入りするようになった。
「もう私ここに住もうかな。」
「ふざけるな。」
「だってほぼ毎日来てるんだからその方が楽じゃん!学校もこっちの方が近いし!それにここは沢山人がいるし楽しいもん。」
ヤクザが沢山居て楽しいなんて思考に辿り着く女子高生が普通いるか。だが遥香は初めて逢った時からそういう奴だった。そんな人間に出逢うのが初めてなのは俺だけじゃない。ここの人間の殆どがそうだ。〝真実吐(まことつ)き〟の個性を持つ音本が初めて遥香と対面した時、嘘偽りが無く、疑心の無い気持ち悪い女と遥香を罵ったが、遥香はそれを褒め言葉と受け取った。遥香の〝浄化〟の個性の影響か、この年になっても遥香の心が荒む事は無かった。そんな遥香と関わる事で牙を削がれた人間も少なくは無い。それに加え組長(オヤジ)が伏せてからは俺に渋々従ってる奴らは妙に遥香に懐いていた。