第2章 私の弟
連れて来られた真っ白な部屋で、泣きじゃくるジョナサンを必死にあやす看護師さんと、横になっているお父様がいた。
お父様は起き上がるのさえ辛そうなのに、私の姿を目にとめるとボロボロの腕をこちらに伸ばした。
「……クロノ……おいで……」
お父様は知っているのだ。
お母様がもうこの世にはいないことを。
「おとうさま……」
伸ばされた手に対して、首を振る。
「わたしはおねえちゃんだから……だいじょうぶです……ジョナサンをまもらなくちゃいけないのです」
お父様の側ではなく、ジョナサンを抱っこしている看護師さんに手を伸ばす。
看護師さんは一瞬戸惑いを見せたが、その状態でしゃがんでくれた。
「ジョナサン……だいじょうぶ……だいじょうぶだよ。おねえちゃんがいるから、泣かないでいいんだよ……?」
「クロノ……」
抱っこすることは出来ないから、頭を撫でるだけ。
何度も、何度も撫でる。大丈夫だよ、と声を掛けながら。
次第にジョナサンの泣き声は小さくなり、やがて静かな寝息が聞こえ始めた。
「クロノ……クロノ……すまない……」
その様子を見て、どうしてお父様が謝るのか分からなかった。
「おとうさま……なかないでください……わたしがいっしょにいます」
ベッドの側に近づいて、腕を撫でる。
「すまない……すまない……」
ボロボロで包帯まみれの腕が私を抱きしめる。
強く……強く、まるで存在を確かめるかの様に。
お父様……謝るのは私の方ですよ……
無理を言ってでもついて行けば、お母様は死なずには済んだかもしれない。私が守ってあげられたかもしれないのに。