第1章 ヤツが出た。
「みねぇーーーーっ!!」
木造の長い廊下をどたばたと走って、執務室でもあるみねの部屋へと向かう。築ウン十年だけど、それでも床が突き抜けるような心配はない。だって、今まで突き抜けたことなんてないもの。
「みね!」
襖(ふすま)を勢いよく開ける。
「どうしました?」
みねののんびりとした反応に、少しむかっとくる。どうしたもなにもあるもんか。
「ヤツが出た!」
「ヤツ……?」
あーもー、ほんとにどうしてこんなにゆったりとしていられるの!?
「ヤツはヤツだよ!」
私が声を張り上げて言うと、みねがやれやれとため息をつく。
「お嬢の仰ってるヤツとは、どのヤツのことです?」
ゆっくりと書類に目を通しているみねの腕を引っ張り、部屋から無理矢理に連れ出す。
「もう!とりあえず今すぐ来て!ヤツが逃げちゃう!」
今日こそ、逃げられてたまるか。
こっちには、みねがいるんだから!