第20章 悪戯には程遠い【刀剣 一期一振】
昼食を終えて執務室に戻ると一期一振がやって来た。
「失礼します」と軽く頭を下げて入ってくる身のこなしは軽やかで、ロイヤルなんて言われちゃうのも良く分かる。
「弟達がすみません。ありがとうございます」
爽やかに微笑む様は、好青年であり、良き兄だ。
「いいえ。皆が喜んでくれてよかった。ハロウィンなんてどこで知ったんだろう?」
「乱が主からお借りした書物に書かれていた様です」
あぁ、あのファッション紙か…。
「なる程ね。ところで一期はいいの?」
まだ、飴の入っている篭を持ち上げて一期を見る。
「いえ、私はその…。飴玉という歳ではないですし」
ちょっと困ったように、はにかんだ一期。
確かに兄である彼がそう言うのは分かるんだけど、
歳の話をしてしまったら、彼の弟達も『そんな歳』ではないハズだ。
だって、本当は私よりずっと年上なのだから…。
「いいじゃない。遠慮しなくても」
「ですが…」
困った顔の一期がなんだか可愛くて、ちょっとからかってみようと詰め寄った。
「一期。trick or treat だよ。 ほら、言ってみて」
好青年であると鷹をくくって、詰め寄った私が馬鹿だった。
一期が纏う雰囲気がガラリと変わる。
「私の事をからかって、おいでですか?」
じりじりとこちらに歩み寄る彼。
それに合わせて、私も一歩ずつ後ずさる。
「一期?」
呼びかけに返事は無い。
それどころか、気がつけば後ろは壁で、非常にまずい状況に…。
私に逃げ場がない事を確認すると、妖艶に微笑む一期一振。
「それでは遠慮なく。trick or treat。ただ…私は菓子ではなく悪戯の方を希望致しますが…」
「あの…一期さん…?」
「遠慮するなと言ったのは主ですよ」
ぐいっと手首が捕まれ壁に押し付けられた。
刀剣男士と言うのだから、彼らは刀であれど間違いなく男子だ。
そして、私は彼らの主と言えど、性別は女だ。
力づくとなれば敵う訳がない。
私はそれを忘れてしまっていた。
ぐいっと顔が近づいて来て、
危機感を最大限に感じた時、
勢いよく、スパーンと障子戸が開いた。