第16章 親愛の情だったはず…【刀剣 御手杵】
本丸を出るときに「本体はいるか?」と聞かれたので、「万屋に行くだけだからいらないよ」と答えた。
刀ならともかく、槍である御手杵の本体は重そうだし…。
だから御手杵は手ぶらだ。
頭の後ろで手をくんでキョロキョロと周りを見渡しながら歩く彼の半歩後ろを歩く。
これが、同じ槍でも蜻蛉切だったら私の半歩後ろを歩くんだろう…。
でも、この緩い感じが彼らしくていいなぁと思う。
なんだろう…。
彼を見ていると表情が緩む。
執務室の卓上に並ぶ細かい数字達がどうでもよくなってしまう。
長谷部は怒るだろうけど…。
「いい天気だなー」
「そうだね」
道端に立ち止まって、呑気に空を見上げて呟く御手杵に倣って、私も空を見上げる。
すると、
ドンッ‼という小さな衝撃と共に、
バシャリと液体が肩や胸元にかかった。
独特の匂いに顔をしかめる。
下戸の私には縁の無いもの。
しかし、目の前の人には手離せないものなのだろう…。
足元が覚束ない様子の質の悪そうな酔っ払いが、私の合わせ衿を掴み、赤らめた顔をグイと寄せて、
「俺の酒どうしてくれるんだよ‼」
と、勢いまかせに怒鳴った。
吐き出す息からアルコールの匂いが漂い、それだけで頭がクラクラしそうだ。
そもそも、
私は空を見上げはしたけれど、立ち止まったのは、人通りに邪魔にならない道の端。
明らかに、ぶつかって来たのはそっちだ。
どうもこうも無いじゃないか。