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いとし、いとし【短編集】

第16章 親愛の情だったはず…【刀剣 御手杵】


「…おい」

私が口を開くより早く、頭の上から低く唸るような声が降ってきた。

見上げた先に居るのはもちろん御手杵だ。


でも、私の知っている御手杵ではない。

ひどく殺気だった。
今にも、一刺しで獲物を貫きそうな…。


「汚い手で、うちの主に触ってんじゃねぇよ」


再び降ってきた声に目の前の酔っ払いだけでなく、私の肩もすくんだ。


これが、秋田や今剣が言う、『きりっとしたかお』というやつなのか。

御手杵は戦場ではこんな顔をしているのか。


私の身体がすくんでいる間に、彼は酔っ払いの腕をひねりあげ、地面へとねじ伏せる。


「やっぱり、本体、持ってくればよかったな…」


なんて、恐ろしい事を呟きながら…。


「御手杵。だめ!それは絶対だめ!」


地面で延びている酔っ払いを見下すように睨みつける御手杵に慌ててしがみついた。


「もう、行こう。ほら、乱ちゃんがお土産待ってるって言ってたし、早く買い物して帰ろう。ね?ね?」


「あぁ、そうだな。行くか」


まだ少し殺気の残る顔を向けて、彼がこちらを向く。

一瞬、眉間に皺が寄ったかと思えば、


「着とけよ」


バサリと彼の上着が肩からかけられた。



「なぁ、アンタ」

「は、はいっ‼」

「万屋は行かねぇ。帰るぞ。いいよな?」

「…えっ?でも…。買い出しが…」


私の言葉の続きは目線で止められる。



「一回、帰ってから出直しだ。取り合えず、前、合わせろよな」



指差された胸元を見れば、酔っ払いに掴まれたせいで少し乱れていて、

御手杵の指摘でやっと気がついた自分が恥ずかしくなって、慌てて掻き合わせた。


「ほら、いくぜ。本丸に着いたら着替えろよ」


促されるままに歩き出す。


チラリと隣に並ぶ彼の顔を盗み見た。


普段は右から左へ聞き流してしまうような、どうでも良いことなんかを話し掛けてくる癖に、


今は一言も話さず前を見据えて、大きな手のひらで、行く先を促していた。



私の背に当てられた、御手杵の手からじんわりと熱が広がる。

ばくばくと心臓が脈を打つ。


ヤバい…。どうしよう…。


本丸に戻るまで、私の心臓が持ちそうにありません。
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