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いとし、いとし【短編集】

第10章 雄弁な瞳【krk 水戸部凛之助】


「部活、お疲れ様」

私が声を掛けると、今度はペコペコと頭を下げた。


「気にしないで、私が勝手に待ってただけだから。寧ろごめんね。水戸部くん忙しいのに…」


今度は、彼は首を横に振る。

この否定は何の否定なんだろう…。



私の『ごめんね』に対する否定なのか、

それとも、
彼が『忙しい』と言うことに対する否定なのか、

もしくは、
私が『勝手に待っていただけ』という事に対する否定なのか…。


最後のだといいな。

一緒に居たいと思っているのは、私だけじゃないといいな。



自分よりも他人の事を優先してしまう優しい彼だから、たまに不安になる。


本当は迷惑だと思われているんじゃないかなぁ…とか、

なんなら、

水戸部くんは優し過ぎるから、私の事なんかちっとも好きじゃないけど、告白を断りきれなかっただけなんじゃないかなぁ…とか。


水戸部くんは、本当に私の事好きなのかな?



この不安の根本には、
私が彼の言いたい事を読み取れない事にあるんだろう。

水戸部くんに無理に喋ってもらおうとは思わない。

でも…

『解らない』『伝わってこない』ということは、やっぱり不安なんだ。



(小金井くんみたいになれたらな…)


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