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いとし、いとし【短編集】

第23章 はじまりは苦味【hq 烏養繋心】


今日も一通り仕事を終えて、学校の門をくぐり、学生時代にお世話になった坂ノ下商店を通り過ぎようとすれば、見た事のあるシルエット。


『わりぃ、部活中だから後で』


確かに、彼は体育館でそう言っていた。


でも、それって大人のやり取りの中では良く有ることで、所謂、社交辞令なんだと思っていた。

『また、連絡するね』と言っていた人からいつまで経っても連絡が来ないなんて、珍しくもなんともない。

それと、同じだと思ってた。



「何、キョトンとしてんだよ。『後で』って言ったろ?歩きか?」


「うん。駅まで…」


「家まで送ってやるよ」


ジャラリと音をたてて、車のキーが差し出される。



「わざわざいいよ。駅まで遠くないし」


慌てて首を振れば、


「こうゆう時は甘えとけばいいんだよ」


2、3歩、詰め寄った彼が、私の頭にポンと手のひらを置き、


「ほら、乗れって」


背中を押して促された。


ドクドクと心臓が音をたてるのは、
私がこうゆう事に不慣れだからだろう…。

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