第4章 彩花。
かちゃりという音に顔を上げると、綺麗な裾が見え身構え見上げた。
「おう、さま?どうなさりましたか?」
「⋯お前の部屋には理由が無きゃ来てはならぬのか」
「⋯⋯それも、そうですね、申し訳ございません」
ふと、視線を落とす。
立ち上がり、微笑む。
「お疲れでしょう、どうぞおやすみください」
「⋯⋯」
「⋯栗花落姫様に怒られたのですね、心配症ですからね、どうぞ、寝台をお使いください私はこちらで充分でございます」
そう言ってすとんと、また、座り込む。
ふと、王を見上げると首をかしげる。
「なぜ、栗花落だと?」
「貴方は栗花落姫様の為であれば動くからですよ、姫様は⋯お優しく⋯とても⋯お美しい⋯⋯ですからね」
眩暈がする。
ふふ、と笑みを浮かべる。
知っている。
これは知っていること。
貴方が誰より栗花落姫様を愛していること。
「⋯⋯お前は死なぬそうだな」
「えぇ、殺してみますか?」
目を閉じて優しく微笑む。
もう慣れたから。
貴方に殺されるのも、慣れたから。
「王様、私、妃は貴方の物ですよ」
王は目を見開いた。
民のものとは言わなかった。
「どうぞ、御随意に」
微睡むように壁にもたれ掛かる。
剣を抜く音にも反応せず、少し白髪が揺れる。
「死なぬ妃で、申し訳ございません 」
まるで、失敗したように微笑んだから。
興が冷める。
誰もが口を揃え千代を知るものは言う。
王の為だけの官吏だと。
ああ、正に。
そうなのだろうと実感する。
「外朝に行っていないそうだな」
「はい、此処での仕事がございますから」
「此処での仕事?」
「王様と夜伽をするという国のための大切なお仕事です」