第1章 彩華。
黎深の使いが急ぎの話がと言われ3人で首をかしげながらも、2人に家に入っていなさいといい俥を覗く。
「おはようございます兄上!今兄上の御宅に不審者が来ませんでしたか!?名も名乗らず、やって来て私が誰だかわかりますか?等と尋ねる輩です」
「あぁ、それなら、ついさっき見送った所だよ。君が来る数分前にね」
「あ、兄上はご存知で⋯?」
「それがね、良く分からないんだよ⋯なんと言うか、思い出せないんだ」
黎深が言うにはどうやら末の兄弟から回っていたらしく、噂が噂を呼び来たらしい。
とはいえ、彼女を知っている気はした、だが思い出せない。感想はその一言だった。
「⋯でも、彼女は知っているんだろ。私達が思い出せないでいる気がしてならないんだ 」
彼女が妻の事を言っていたからじゃない。
どこか、胸が突っかえる。
「兄上、あの方は魔女です」
その言葉に首を傾げる。
弟は忌々しげに吐き捨てる。
「あの王の、寵愛です」
思い出した時、ふと、見送った方を見つめる。
『邵可、私はねお前達が大好きなんだ、兄弟仲良くするんですよ。そうしたら、どんな事も乗り越えて行けるから』
『兄弟?姉上?』
『さて、戻らないとうるさいんだあの方は、邵可、忘れないでくれよ。私の事を。』
優しく頬に口付けをする。
あぁ、そうだ。
黎深も産まれる前から、兄弟仲良くとうるさく言い、年に数回しか会えなかった人。美しく、強く、優しく。
「姉、上?」
黎深は目を見開いていた。
ふらり、ゆらりと何かに手繰り寄せられる様に走り出す邵可を見て口元を扇で隠す。
いいや違う、姉上は死んだ、あれは魔女。あの暴君に愛される魔女なのだから。
「はぁ⋯」
全滅だった。
頼みの綱の邵可まで⋯まぁ、長年合わなかった私の責任何だけど。
ふと、自分の掌を見て目を閉じる。
今回の長い長い戦はもう終わる。
だから、最後に最期にと思っただけ。
「何をボサッとしている」
「あら、あら?今は見たくも無い面を私に見せてなんて有難迷惑なのかしら」
彼女は機嫌が悪い。
彼は剣を抜き彼女の行く先を阻む。
「何だ、最期の挨拶とやらはどうした」
「⋯」
「覚えている者などおらんだろうに」
馬鹿めと続きそうな言葉に彼女はため息をついた。
「ええ、そうね。」
男の隣に座り肩に寄りかかる。