第1章 彩華。
一方その頃客間では。
(お嬢様⋯あの方本当に旦那様のお知り合いなのですか?)
(さ、さぁ?でも、紅邵可はいますか?と言われたのよ、間違いないと思うわ)
優雅にお茶を飲む客人はふわりとした優しい面持ちの女性だった。
ふと、湯呑みから視線を上げ秀麗と目が会い、続いて静蘭を見つめ少し目を見開きにんまりと微笑む。
「もしや、夫婦ですか?」
「え?」
「邵可の娘はとてもいい男を捕まえましたね!ええ、見る目があるのは奥様譲りでしょうね」
「お母様を、しっ、て? 」
静蘭はそっと下がり身構えると、邵可が顔を出す。
「いやぁ、お待たせして申し訳ございません」
パタパタと慌ててきたであろうが、何とも呑気な声に客人は立ち上がり目を輝かせた。
「わ⋯」
首を傾げる邵可。
彼女はその瞳を見て苦笑いをする。
「私が誰だか、分かりますか?」
「えっと⋯⋯申し訳ございません⋯どこかで⋯」
彼女は眉を下げ、小さく⋯そうですか、とつぶやく。
ゆるりと、椅子から離れ頭を深々と下げる。
「尋ね間違えたようです⋯申し訳ございません、朝からご迷惑をお掛けてし」
「いぇ、いえこちらこそ⋯⋯?」
「それでは、失礼致します」
真っ黒い髪の毛。
紅い瞳。
どこかで見た事があった。
ふわりふわりとする、後髪。
見送りながら胸がザワザワとした。
姿が見えなくなる頃秀麗はポツリとつぶやく。
「父様⋯あの方、母様の話を零していたわ。私と静蘭を夫婦と思ったらしく、邵可の娘はとてもいい男を捕まえましたねって、見る目があるのは奥様譲りでしょうねって⋯」
「うーん⋯」
妻のことを知っている人物⋯
唸ると、バタバタと騒がしい影に振り返るとあの、黎深の俥が止まっていた。