第2章 彩香。
数日後怒鳴り声が御史台から響き渡った。話はこうだ、先日死んだと噂されていた縹官吏がケロッと出仕したからだ。
幽霊かと思い誰もが無視をしていると、旺季が来てあの、温厚な旺季が「馬鹿者!!」と怒鳴っていたのを聞いて本物なのだと知る。幸い何度か行方不明になり、何度か葬式を挙げられた者も居ることからさほど不思議には思われなかった。
が、顔に大きな火傷を付けて来たもんだから、まさに僵屍そのもの。
「千代、お前は本物か?将又、あれか?僵屍か?」
「なっ、私は私です。なんです、僵屍とは!」
「なぜ、息子に会わぬ」
「⋯叔父様は随分と孫が可愛いらしいですね。えぇ、会いますよ⋯でも、今ではありませんから」
「⋯⋯あの子は」
「強くて優しい貴方に少し似たいい男でしょう?私の自慢です。」
その言葉に旺季は目を覆った。
あぁ、その真っ直ぐさはよく似ている。
『母は約束しましたから。あの人は嘘をつかないのですよ。叔父上』
まっすぐの瞳で涙を流し信じている。
それを反故にするつもりもない彼女。
正しいんだ、いつも、この娘は真っ直ぐで。
「無事ならいい。あぁ、無事ならそれでいい」
くしゃりと泣きながら言う彼を見て熱いものが胸に込み上げる。
「叔父上私はね、叔父上が殺したいほど王を憎んでいるのを知っているよ。だから、私を苦しめないでね、これ以上一人にしないで。」
その意味を問うことなく彼女は王の妃になった。
美しく凛と佇み、微笑む姿。
紅家直系血筋の縹家の娘として嫁ぐ。
瑛姫が遥々来た時は王を怒鳴るわ、妃を怒鳴るわ、夫を怒鳴り、旺季を怒鳴り、霄までも怒鳴られていた。
それでも、瑠花が千代の傍に寄り添うのを見て膝が崩れたように泣いたらしい。
瑠花は、千代にとってこれが最善だと瑠花は断言していた。
運命など蹴散らして生きてきた彼女はその言葉がよくわかった。
特別にしてまで、彼女は一人を拒み、この娘との最後を臨むのだと。
それは、瑠花だけではない事も。
後宮では、一輪の大輪が咲いていた。
久しぶりの花。
それも、妃ときた。
千代は抜け出しては王宮に行き仕事をする。
愉快な妃だと、霄は笑っていた。
結婚して一月も王は姿を表さぬ事に動揺をしない妃に女人達は動揺を隠せなかった。