第2章 彩香。
霄は眉間を寄せて着物を直す。
「他には飛燕姫や、旺季、薔薇姫もっと言えば、あの瑛姫にもあります」
「これは何なんだ」
「それより、霄、医務を」
「放っておいても死にはせんよ、千代は。縹家に愛され誰より仙人にこの国に愛された娘」
ひょいと抱き抱えると千代は霄を見て微笑む。
「霄⋯⋯暖かい毛布が、欲しいのよ」
微睡むような声と表情に、二人は見蕩れた。
いつも眉間を寄せているか、作りものの笑顔ばかり見てきた。
その柔らかな瞳と表情。
細い指が霄の首筋を撫でる。
「ねぇ、霄、ひざ枕⋯して⋯眠りたいの」
くたりと肩に寄りかかり目を閉じる。
霄はどきりとした胸のうちを隠す様にため息をつく。
えぇと、言えば王は俺の部屋にとは言わなかった。夜闇に紛れるように立ち去る。
甘く幼い声音で言う娘。
別人の様だった。
「戩華、彼女は、見えているよ君を」
「⋯いいや、彼奴には見えてない、俺なんか見えてもいない」
「それでもね、千代は、本当にびっくりするぐらい⋯君を知っているよ」
栗花落は泣きそうな顔をしていた。
「劉輝は」
「劉輝だけじゃないよ、清苑公子も、面白いぐらいに、ちゃんとしてる⋯まっすぐ正しいよ」
あぁ、彼女の膝で過ごした少しの間、劉輝は清苑はよく学んでいた。今後を未来を今を。ため息をつきながら額を抑えた。
栗花落は忘れられない。
あの娘が王を孤独と言ったことを。
そして、その言葉を二人の公子は考え続けていることを。
「分かっているんだろう?君に魅了されはしない。君がどれだけ優しくしてもどれだけ言葉を偽ってもね」
「⋯⋯それでも、あの娘が⋯」
栗花落は嬉しそうに王を抱き寄せる。
あぁ、その言葉が聞きたかった。
今の安寧をくれた姫の幸せを願う自分もいるがこの情けない幼なじみが幸せを求めてくれるのが。
優しくあやす。
君が初めて愛したのは小さな仙人。
どれだけの痛みをその身体で受け続けているのだろうか。
「痛みに慣れなどないよ、断言できるよ」
その言葉を彼が聞いていたかどうかは分かりはしない。