第2章 彩香。
「霄、誰だその娘は」
王の声に霄はぎゅっと千代を抱きしめた。
顔を見せぬようにすると千代は泣きじゃくり顔を隠しながら混乱するばかり。
「私の愛しい人ですよ、陛下。帰りが遅く忍び込んだらしいですな」
優しく撫でられる髪の毛に、微睡みふと、眠らされる。
最後に見たのは霄の優しい顔。
その後の険しい顔をした王だった。
霄はひょいと彼女を抱き上げていた。醜い塊にしか見えなかった娘は、美しい姫君だった。
他とは見え方が違うのだと理解したのは栗花落との彼女の外見が一致しなかった為だ。
そろりと、触れようとすると霄がにやりとする。
「これは、貴方のもので貴方のものではありません」
「何?」
顔を近づけ彼女を愛おしげに見つめる。
「貴方の真っ当な天命を誰より悲しみ憎んだのがこの娘、そして、それを可笑しいと怒り愛したのがあの方。何度でもやり直す呪いを貴方は掛けた⋯数多の世界で貴方を救う為だけの貴方様の官吏」
火傷が残る顔。
その火傷に触れるとザラりとする肌触り。
「清苑は何と」
「彼女の言いつけをちゃんと護って行くでしょう」
「⋯⋯そうか」
主に戩華の世界を大きく変えて大きく変えられたことを彼は知らない。
霄や瑠花は知っている。
かつては多くの者が知っていた。
今ではたった二人だけとなった。
それを寂しく思っているだろうに。
ひどく泣き虫だった。
あの戩華が手を余すぐらい。
「この娘はどうなっているんだ」
「仙人になっただけですよ、瑠花が留めた最後の手段、この娘を愛しすぎたゆえですな。」
「⋯ほう」
「では、私はこの娘を」
「余の寝所に捨て置け」
「は?」
「出れぬよう呪いでもかけておけばよいだろう?」
「あ、貴方はどういうおつもりですか」
「貴様が言っただろう、余のモノだと」
にやりと笑った王を見てうなだれた。
彼女は王を救うために何度でもやり直す。
そうして、王の官吏になったのだから。