第2章 彩香。
千代は目を覚ます。
確かな記憶と、見覚えのある場所。
千代は目を擦り肩を落とす。
瑠花様の言っていたものだと気が付きふらりふらりと探し人をとさ迷う。
やっと見つけると、かの王が傍に使えていた。彼は見えた人だったはずだ。
千代は隠れながら目を閉じる。
「千代が死にゆきました」
「⋯⋯あの娘か」
「はい」
ふと、戩華を見ると胸には私が付けた呪い。まだ、生きているということに驚く。ふと、自分の胸を見るとつけられている。
あぁ、なんて強い呪いだ。
自分でも驚く。
ほくそ笑みながら、ふたりの会話が途切れるのを待つ。
「⋯⋯長く持ったものだな」
「何をおっしゃいます、あの娘がこの世に来て10年も立っておりませぬ」
狸がそれを口にすると王は首を傾げる。
千代は真っ青な顔をしてひょいっと狸に中指を立てる。
手招きをすると目を見開きにやりと微笑む。へたり込むと少し待つように王に言って近くに来るのを見てすっと、隠れる。
「おや、千代姫どうなされて?」
「仙人の力など私は分からぬのですよ!先人に何かとお力添えをと思ってきてみれば貴方は何を王に吹き込んでいるのですか!」
「本当のことですよ姫、本当の」
「そんなもの瑠花様だけご存知あれば良い事です!」
「瑠花姫だけとは寂しい、寂しがり屋の貴方らしくはない」
「何を⋯これからは私も何処ぞの狸先輩を見習い自由にと思ってた矢先それですか!辞めてくださいまし!」
「全てを結局は貴女の計画通りにまいりましたね、今回は」
狸の言葉に目を丸くする。
今回は?
「なっ⋯狸⋯貴方⋯」
「よく、耐えましたな千代⋯」
「っ~!!!うるさい!へっぽこ狸!」
泣きじゃくり霄に抱きつく。
優しく撫でる手はあの頃と変わらない。
分かっていた、分かっていた、この場所で、王宮で涙を流すなどもう出来ぬと。
なのに、この男ときたら。
「そうやってっ誑かしてっ私まで泣かせてッなんて酷い男なのっ」
ぎゅっとしがみつきながら言う娘は愛おしく思えた。どんな姿になっても、最後まで。
愛した別人を護る滑稽な娘。
挫けす、泣かず、泣き言を言わず。