第2章 彩香。
「千代さん」
情けない顔で名前を呼ぶ息子。
私は体がもう自由に動かせはしない。
「なぁに?静蘭、今日はちゃんと邵可様のお手伝いに参りましたか?」
「奥様に返されました⋯傍に居てやらぬかと」
「まぁ!それは残念でしたね、貴方は⋯いつか、秀麗を護ってほしいの」
「秀麗お嬢様を?」
「ええ、静蘭⋯ふふ、えへへ」
そっと手を伸ばし頬を摘む。
「笑って、静蘭⋯」
「はにひっへんれふは」
「私はもう直ぐ、少し眠るわ」
腕をガシッと掴む。
目を見開き涙が瞳をつつむ。
それを見て嬉しく思う。
「少しだけよ、こんなに可愛い息子を置いてなんか行けないわ。だからねぇ、静蘭私のお願い。劉輝を支えて、秀麗を護って」
手を離すと静蘭は力なく項垂れ手を握っていた。優しく、離さぬよう。
「貴方は⋯貴方は誰が護るのですか⋯」
「愛してくれた人が、居たの、彼は私に、好きにして来いと言ってくれたのよ、だから、私を待っててくれる人がいるの。ちゃんと、此処に」
千代は嬉しそうに微笑むから、静蘭は涙を流す。
叔母上が言っていた。千代は長くは無い。
むしろ、生きているのが奇跡だと。
王の呪いを全て受け変わり、数多の人の死という天命を受けていると。
それが誰か等言わなかった。
あの、叔母上さえどうにも出来ないのだろう。
「いつか、主上が死んで、いつか貴方に王座と言うものが出て来るでしょう。けれど、貴方は今なら自分がどれだけの存在か理解していますね」
「⋯はい」
「兄弟仲良く、支え合ってください、幸せになってください。貴方はあの人の愛する息子なのですから」
母君はそう言って眠りにつく。
呼吸を止め、優しく微笑んだまま美しく。
死す。
彼女の葬儀は行われることはなかった。
瑠花様が、彼女を離さず飛燕姫の説得でどこかに埋葬されたとか。
母君と呼んであげなかった後悔だけが、胸に残った。
「あれ?」