第2章 彩香。
「これは、知っていることですから。」
「!?」
「飛燕姫が今必死に縹家の立て直しをしております。ですが、そんな今さえ奇跡、鬼姫貴方が生きていることが奇跡、全てが狂えば旺季様にとって貴方はただ、憎い、すべてを殺し奪った罪人と大差ないのですから。皮一枚、生きていることで、未来が変わっている。だから、私は貴方を死なせない為に誰も死なせない。旺季様の姉上も娘も貴方も、けれど不穏分子は私が始末します。死んでもらわない為に死んでもらうんです」
「千代⋯お前は⋯」
旺季の口を手で塞ぐ。
「王、私の言葉を戯言だと言うのならそうしても構いません。ですが、私は貴方を助ける為にすべてを狂わせ、歪ませ、殺します。何度でも」
視線を逸らしたのは王だった。
深く長いため息。
「あの狸が言っていたのが分かる。今ならな。」
「⋯なんで、すか?」
「貴様は歪んだ醜いものだと」
千代は目を見開き涙を流す。
それには鬼姫は息を飲んだ。そして、涙を流す度に流れる化粧。
旺季は驚いた。
「どんな事をしてでも叶えたい夢がありましたから。愛する人が私を何度でも強くしてくれたんです。」
ふと、千代を見上げる王は驚く。
その頬に醜い火傷が浮かぶ。
厚化粧で隠していただけだったのだと。
「して、そんな姿のお前も愛する人は愛すると?」
千代は微笑む。
「きっと、愛してはくれないでしょう。けれど、私は見たいのですよ、彼が幸せになる世界を」
その笑顔は自分に向けられたものでは無いと知っていても胸を打たれる。
この世の美人でも叶わぬ美しいものだった。