第2章 彩香。
これでいい。
旺季の後見は王の対峙を示す為。
そして、瑠花様の後見は縹家の直系同等として、羽羽様の後見は主上の為に真摯に尽くすと言う証。
鬼姫が旺季の姉であり彼女の生が戩華への僅かな僅かなされど大きな歯止めでもあったのだろう。彼女の死、飛燕姫の死を彼は受け止められない、いや、受け止められても何処かで思い積もらせてしまっている。
だから、殺させない、死なせない。
彼女の天命さえも私が引き受ける。
瑠花様が貴陽で羽羽様の傍に居る今、縹家に行き薔薇姫が暗殺される恐れは少ない。
ましてや、今は飛燕姫が仕切っているのだから。
そして、王も理解してしまった、旺季が縹家を変えたと。
そして、縹家も変わったと。
だから、二人が死ぬのはあとは天のいたずら。何としてでも阻止する。
ごろりと横になった体を起こし、思いふける。愛らしく無垢な公子が湯浴みに行ったことを思い出し水を拵えねばと。
最後に思いふけ、気を失う。
やや暫くしてその戸は開けられる。
口元を布で隠し男は険しい顔をしていた。
千代は服が溶け酷いやけどを顔と体にしながらぼうっと見つめる。
「ん、ぁら、旺季様⋯?」
「なっ、!?」
「旺季様、今度は、全て護りますよ⋯貴方は私を無力だと笑い、私を嫌いましたね、だから私はすべてを捨てても⋯貴方の姫様と姉姫様、そして私の譲れない紫戩華を⋯護りますよ⋯だから、彼を⋯殺さないで 」
「な、何を、何を言って⋯」
ぼんやりとする頭が夜風で冷える。
千代ははっとして、状況を整理する。
私はどれ位気を失っていた?
公子達が不審に思ってしまう。
「あ、ぁ、旺季様、お願いです、公子達にお水を、湯浴みに行って戻ってこられる筈なのでお水を、私が用意していたものが、こちらに、これなら彼らが口にしても大丈夫なので、申し訳ございませんお願い致します」
「っ!」
「公子がここに来る前に⋯お願い致します」
ずるりと、身体を引きずる彼女に旺季は目眩がした。知っている気がした、この世は女人が死に逝き男は砂糖水を啜る。
彼女は片目を閉じ首を傾げる。
「旺季、さま?」
「すぐに戻る」
「公子達お願い致します⋯」
夜風が優しく頬や火傷を掠める、起きなくてはと思いながらも身体が言う事を聞かない。
この場所は何処までも冷たいだけ。