第2章 彩香。
そんな会話を耳に千代は何度も毒を嗅いでは割り、嗅いでは割り、ふと知らないものが置かれているのに気がつく。見慣れない食器にひたひたの液体が入る。それに鬼姫が手を伸ばすのを見てその手をはらう。
その瞬間に液体は千代の顔や体に飛び散り焼ける音が響く。
「っ⋯お怪我は!?お怪我はありませんか!?」
服が溶けていた。
強い毒。
千代は真っ赤な瞳を見開き鬼姫を見つめた。
「千代、君の」
「触らないでください、強い、強い毒です。手伝って下さり感謝致します。ですが、此処は危険ですので、御二方はご退室願います、お話しであれば呼び出して頂ければいくらでも赴きますのでどうか、ご退室をお願い致します」
頭を下げる千代。
鬼姫は理解が出来なかった。
じわっじわっと焼ける音。
響くほどなのに彼女は⋯何故庇うのか。
王を苦しめたく妾を殺したのかと思えば、公子を正しく愛し、こうして、公子を守っていた。
理解出来なかった。
ふと、戩華を見ると苦虫を噛み潰したように表情を歪めていた。
「千代、医務室に」
「鬼姫、ここに女は居ないのですよ」
涙も見せない彼女。
「戩華、君は、彼女に何を求めたんだい?」
「何も知らん、この女についてなど⋯!」
千代は眉間を寄せ、頷く。スンッと鼻を啜り二人を乱暴に引っ張り追い出す。
「御用があればいつでも、では」
閉められた給湯室。
ズルりと何かが扉を伝い堕ちた音。
「千代!?千代!大丈夫かい!?千代!」
「何ともありません、部屋にお戻り下さい」
「し、しかしあの毒は⋯」
「いいから!お願い⋯離れて、貴女には死なれては困るのよ!!!いい加減解りなさい!!何のために旺季様の後継を奪い取ったと思うの⋯何かあっては王にまで⋯」
鬼姫はドクっと重々しく脈打つ心臓にそろりと戸から離れる。何を知っている?なにを考えている?
「二度とこの場所に来ないでくださいまし」
凛とした声に戩華は呆ける鬼姫の手を掴みその場を去った。