第11章 才華。
「下ろして」
「ダメだ」
「飛び降りますよ」
「お前は俺を殴ったんだ、座っていろ」
「理由には足りませんね。」
「そうか、なら、教えてやる」
不機嫌な顔でちらりと、視線だけ向けて告げる。
「時間がどうとか言っていたな」
「はい」
「それをしたのは、蒼姫だ。そうだろう?藍家の」
「は、はい」
千代はみるみる顔を強ばらせ、急ぎなさいと怒鳴る。
「貴方は自分の娘を殺すつもりですか!!」
「構わんと思ったからそうしろと栗花落に指示した」
「栗花落様はご存知ではないでしょう」
「お前の娘だから出来るとは思っただろうな」
楸瑛は驚いていた。
虫けらのように娘を扱っていた人だった。
溺愛していた、娘を、その娘が死んでもかまわないと言った王。
この夫婦は歪だ。
「その後あの子は?」
「静蘭を見た途端倒れ、私たちが出る時は高熱で魘される蒼姫姫様を静蘭が看病しているとお聞きしました」
「⋯はぁ⋯厄介な⋯栗花落様はまだちゃんとあの子を診ていないのね」
「私達が城を出る時は宮中混乱し、主上もその収拾に走っておりましたから⋯」
もう!と怒鳴り、戩華の足を踏もうとしてスっと避ける。
あ、避けた、と楸瑛と絳攸が見ると戩華の膝に座り胸ぐらを掴んでいた。
「貴方が欲しいと言うから!貴方が望んだ民が望んだのはあの子よ!!私では無い!」
「あぁ、そうだ、けれど、お前の子でないのなら俺はいらぬ。死ぬならそういう運命だろう」
千代を宥めようと、二人は声を出そうとすると、頭突きをする。
流石に目を丸くする先王に言葉を失う。
大量の汗が吹き出し、すとんと、座り俯く。
「貴方のそういう所がたまらなく嫌いだから、私は清苑と劉輝でよかったのよ!!!それを望ませ、貴方が殺そうとするなんて⋯」
「殺すつもりは無い、死んでも構わないと言っただけだ」
「そう、なら、私がどこで死のうが消えようが同じ事仰られて下さいますね、私を苦しめあの娘を産ませ、アノ娘の死に無関心でおられるのですから、これ以上の屈辱はありません」
今ここに刃物がないのが不幸中の幸いだろうと思い耳を塞ぎ視線をそらそうとするとガタンと俥が揺れる。