第11章 才華。
城内は緩やかに穏やかさは崩壊し、日が沈んですぐに妃が行方不明だと騒ぎ始めた。
それを止めたのは栗花落。
「千代なら戩華と城下で遊んでいますよ。あの夫婦はなんだかんだ言って仲はいいですからね」
旺季の姉とあってグウの音も出させてくれぬ笑み。
官僚達は引き下がるしかなかった。
次々と後宮に入ろうとする輩を笑顔で外出中だと、珠翠と共に告げる。
早く帰らないと笑顔と化粧が持たないと祈る思いだった。
蒼姫は酷い疲労と熱に魘され部屋で静蘭に看病を受けていた。
カラになった箱を見て涙を浮かべ倒れたのを思い出す。
「せーにぃ、さま」
真っ赤な顔で褒めてくださいましとねだる妹。初めてにしては上手くやりすぎだと、リオウには言われ羽羽には泣かれ、ただもどかしかった。
「なにか欲しいものでもあるか?」
「いいえ⋯⋯ただ⋯少し⋯いいえ、凄く不安です」
「⋯⋯母上の事か?」
「はい⋯⋯きっとまた、憎まれるでしょう?こんなこと⋯だから、不安で怖くてそんなことを思えるのが嬉しくて」
「蒼姫、今は休みなさい」
「せーにいさま、いつか、蒼姫をお捨てになってください」
その手は暖かく、きゅうっと握る。
「にいさま、私⋯⋯産まれて物心がついてから、ずっと⋯兄様をお慕いしておりましたの」
ドキリとした。
涙目で告げる娘。
妹なのに。
「母様から預けられたと聞いて⋯少し胸が傷んだのですよ⋯⋯だから、優しいのだと、けれど、それでもいいと⋯母様が消えて何をすべきか等分からずにいた私を護ってくれた兄様を見て、頑張れたのです⋯けれど、もう、いいのですよ」
「もう、いい?」
「はい、今はそばに居てください」
「蒼姫⋯?」
「よく、わからなくな、って、ふふ」
何を言ってるのか分からないのかにこにこして目を閉じて数秒だ。
静蘭は笑顔で聞いていたが腰が抜けた。
まさか、妹からそんな事を⋯くしゃりと髪をかいて深くため息をつく。
熱を持つ手は酷く柔らかく、少し懐かしい。
寝顔は父に似ている気がして、憎らしくも愛おしい。
愛したのは⋯母だから。
君を守ろうとしたとは、言えなかった。