第1章 彩華。
バタンッとイライラしたように戻ってきた千代。
「長官!」
「千代、戻ったか。今日は運がわるいな」
王から呼び出しだと言われ千代は機嫌悪い顔を益々歪ませ旺季さえ目を逸らしそうになる。
「叔父上、御用は何と?」
「『旺季、俺はな猫の手も借りたい程忙しい、貴様の子は暇を持て余しているだろうに、宮中を散歩しているのなら即刻捕まえて俺の前に連れてこい』」
「嫌っ!!!!だっ!!!私を動かしたいのなら瑠花様か羽羽様を連れてきてくださいまし!私はアレのパシリではございません!」
机に向かうとスラスラと文をしたため、廊下に居た暇そうな官吏を呼び止め、王にと言えば走っていく。千代は清々しい顔で席につくと、先程貰った姿絵を開ける。
何ていう事だろう。
その姿絵は美しいだけではなく、きちんと彼女の内面も描かれていた。
「⋯⋯自分の妾の姿絵を私に寄越して自慢か何かでしょうか?」
これを見習えと?
千代は優しく姿絵を巻き上げ、ふと、いつもとは違う引き出しに姿絵をしまう。
「千代、して、王はなんと?」
「鈴蘭様の姿絵を寄越して来ただけです。あとは、言葉を慎めと霄様が怒鳴っていただけです。さて、叔父上、いえ、長官仕事は進みましたか?」
頭を抱える御史台長官。
千代はにこにことしながら、金平糖を口にする。ふわりと、雰囲気が和らぎ戻りつつある平穏に御史台官吏は安堵する。
大きなヤマの報告書。これを書き終えれば、次の雑魚をと考えていると、騒がしい廊下に気が付き千代は嫌な予感がして部屋のドアを締める。鍵をかけ、ふふふっと微笑む。
あと数分で定時だと言うんだ。
厄介事は誰もが回避したかった。
それは千代とて同じ。
今日は帰って瑠花姫と洋菓子作りをする予定が詰まっていた。
が、ドンどんどんと取り立てのような音に旺季が腰を上げるとドアが粉砕される。