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【彩雲国物語】彩華。

第1章 彩華。


 「縹官吏はいるか、なんだ、居るではないか」
 千代は慌てて眼鏡をかけて笑を貼り付ける。
 「経費で落としますよ?宜しいですね?」
 「そんな事より、貴様、兄弟が多いらしいな」
 千代は眉間をぴくりと動かす。
 「王にしてよくお調べつきましたね」
 「あぁ、なんせ本人も誰も彼も母親さえ忘れてると来たからな」
 「それで、私に何のようですか?」
 そこまで調べあげたのなら、脅してでも動かしたい事情があるのだろう。
 王は満足気に嫌味な笑を浮かべる。
 小脇から取り出したそれを千代の視線まで持ち上げる。
 それは先程王に押し付けたモノ。
 「入れ」
 王の後ろから現れたのは清苑公子。
 それには流石に旺季も黙っていなかった。
 「込み入った話と見ました、どうぞ私の部屋をお使い下さい、縹官吏も来なさい」
 ムスッとした表情を消していた。
 長官室に入っていく一行を見て、あの縹官吏が何かしでかしたいや、きっと何かしたはずたと噂が駆け回った。
 
 千代はと言えば、旺季の隣りで黙り込んでいた。その表情は慌てる訳でもなくいつもの真剣な眼差し。
 向かい合う王とその子息は何故か怒りに震えていた。
 「後宮が全焼した」
 「はい!?」
 「それで、私になんの御用なのでしょうか。」
 千代の瞳は王を真っ直ぐ捉えていた。
 「火器など使うものは居なかった、ましてや全焼となれば外部からだろう。」
 「生き残乗ったのは彼らだけですか?」
 「あぁ、そうだ」
 「なら良かったですね。あと一人ですね」
 その言葉に王は目を見開いた。
 「あと一人?」
 「えぇ、無駄な争い、内乱を起こす火種。貴方は父親として優しすぎ、無責任。だから、後に残る民には害でしかなった。良かったではありませんか。その火種が消えて」
 「千代⋯お前⋯まさか」
 旺季の言葉にくすくす笑う。
 「叔父上、私にそんな手品のような事は出来ませんよ、凄腕の凶手ならしも⋯私は事実を言っているだけです。」
 ギロりと睨む清苑公子。
 王はただ、眼鏡の官吏を見つめていた。
 紅き瞳は揺れず逸らさず真っ直ぐ見据える。
 「それで、何の用でしたか?」
 「こやつらを暫し預かれ」
 ここに来て初めて千代は目を丸くする。
 「へ?」
 それを見て王は目を細め愉快げに微笑んだ。
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