第1章 彩華。
「千代、早かった⋯」
「叔父上、私は少々虫の居所が悪いので外の空気を吸ってまいります」
「あ、あぁ」
では!と言って鬼の様な形相で部屋を後にする。静まる御史台に王は何を言ったのだろうと全員で頭を抱えた。
千代が向かっていたのは、後宮だった。
服を着替え化粧をし、素早く忍び込む。
彼女は後宮すべての部屋に火を灯し歩く。
全員が平等に死すように。
「だ、だれ?」
ふと見られた子供を気絶させ、ふと、視線に振り返る。
「鈴蘭様、貴方は聡明だ、そして、美しく王の官吏に相応しかった。だから、死んで頂く。」
「成程、身軽に死の粉を撒き散らすんですね」
「王位争いも、内乱も全て私が止め私が殺す。王の心は誰も頂けない」
鈴蘭はふふふと微笑み見据える。
「醜い化け物にもあの人は好かれるのですね」
千代は苦笑いを浮かべ剣を振るった。
小脇に抱えていた子供を見て頭を抱える。先月母親を無くした。下唇を噛み締め向かう先は一つ。
父親の所。
走り書きをして、懐に差し込み廊下に起き捨てる。
彼を見て足を止めるのは父親だけだろうと。
駆けつけた妾の親族を殺して行く。
死した肉を燃え上がる部屋に投げ捨てる。
一時が過ぎた頃に駆けつけた王の姿を見て舌打ちをする。隠れたが、素手に遅い。
鬼姫が今日は王宮に居たのを忘れていた。
「何故だ」
「貴方が王を悪くする、貴女が王を支えるべきだった」
真っ直ぐ見据え吐き捨てる。
どうせ、早かれ遅かれだ、そして、あんな下らない大会をしている必要なんかない。
「失礼、先を急ぐので」
素早く立ち去るのを見て動けなかった。
紅い瞳、黒い髪の毛、透き通る肌、あぁ似ていた、声も落ち着きのある声音など特に似すぎていた。その声で言われ動けずにいた。あの女は誰だ?あんな禍々しいものを纏い何故⋯
王が小脇に抱えていたのは末の息子。
その手には「落し物」とだけ書かれていた。
表情はなく目を閉じため息をつく。
鎮火させろとだけ言い後宮を去る。
何故、慌てない?これは、殺害だ、何故、誰一人名を呼ばない?
何故、と繰り返し思い浮かぶ。
「貴女が王を支えるべきだった。」
その言葉に涙が零れる。
あぁそうだ、いつからだろう。
もう戻れなくなってしまったんだ。
そう感じてしまう。