第10章 彩稼。
暑くて寝苦しく、目が覚めた。
久しぶりに夢も見なくて、ただ、深いため息をついて身体を起こす。
頭がぐらぐらとする。
ふと、ベッドの脇を見ると、ぼんやり何かが見える。
「だぁれ?ひめさまあ?」
その影は少し姫様より大きく見えた。
ぼんやりと手を伸ばす。
手を掴まれたが、ひんやりとして心地よくふふふと、笑がこぼれた。
「ひめ、さま、もう少しそばに来て⋯くだ、さい⋯お顔が、ぼやと、してるの」
「⋯⋯随分と熱があるな」
「?あ、戩華?戩華でしょう、お迎えに来てくれたの?」
にんまりと悲しげに嬉しそうに声音を弾ませ手を頬に当てられる。
「頑張ったのよ?みてた?あのね、戩華はちゃあんと、栗花落様を正妻にしたの、ちゃんと私が用意周到にがんばったのよ」
「⋯⋯」
「それでね、劉輝に家督を継がせて栗花落様とお子様と隠居生活してるのよ、ふふ、凄いでしょ?凄いでしょ!」
「⋯⋯⋯⋯」
「凄く⋯幸せそうなの、アナタ」
頭の痛みに目を閉じると涙が零れた。
「やっと、やっと⋯貴方と栗花落様に会えるの⋯私、二人共大好き、戩華、私ずっと貴方に恋をしていたの、愛していたのよ⋯」
にやにやとする千代。
ぽっぽかぽっぽかと身体は暑く戩華の方を見て微笑む。
表情は見えないけど、きっと真剣に聞いてくれてる。
「戩華、褒めて、次も頑張るけど⋯今は褒めてほしいな」
猫のように戩華の膝に頭をスリスリさせる。
そろりと、千代の髪の毛を撫でながら聞こえた言葉。
「あぁ、良くやった」
千代は頷き涙を零す。
「うん!うん!!!貴方が幸せになるためなら何もかも捨ててみせるわ、何もかもかき集めてみせるわ」
かすれた声、もう、私には誰もいない。
それでも、後悔していない。
「戩華⋯⋯ありがとう、私と出会ってくれて、ありがとう」
「少しお前は休め、あぁ、良くやったのだろう」
戩華がそう口にすると千代は目を閉じハイと告げた。
「何を口にした⋯」
震える声。
「戩華!!!今お前は千代に、何を言った⋯?」
ふわりと、千代は光に包まれ戩華は驚く。
瑠花の怒鳴り声に振り返る。
真っ青な顔をしてとぼとぼと歩み寄る。