第10章 彩稼。
冬になると千代はよく寝込む。
何日も何日も魘され熱に頭がやられたように呂律が回らなくなる事も増えた。
そんな姿を見る度にただ、苦しくなる。
迎えはまだこない。
晴れた日、しんしんと積もる雪を見て千代は外に行きたいと駄々をこね、渋々庭に連れ出す。
わーいと子供のように両手を上げて走り出し侍女が口を出そうとするのを止めた。
「真っ白!!雪!!!姫様っひめさまぁ!」
子供のようにはしゃぐ。
千代に触れること無く溶ける雪。
まるでこの世の者でないように、美しかった。
びりっびりびりびり。
その音に侍女達は慌てふためく。
千代はふわふわですのー!と歩き回る。
その年の冬。
真っ白の雪が馬鹿のように降り続いたある日。
聖地は汚された。
「瑠花」
その声は千代には聞こえぬのかはしゃぎ歩いていた。
ふと、声の主は庭を見る。
千代を、見て眉間を寄せる。
「何だあれは」
「⋯誰がお前なんぞに言うもんか」
「ひめさまぁ!ぁッきゃあっ」
裾を踏んで雪に消えた千代。
流石に驚き二人で声を失くす。
ぶはっと起き上がると彼女は満面の笑みで手を振っていた。
「雪です!ゆき、きもちぃいですよー!」
「それは良かったな」
「はいっ!」
幼子の様に微笑む千代。
髪の毛を柔らかに肩で括っているが長く長く伸びていた。
「で、戩華、何用じゃ」
ふと先王を見上げると眉間を寄せていた。
「あの娘は誰だ」
「妾の娘じゃ」
「は?」
「は?ではない、アレは妾のもの。妾の娘じゃと言っとる、ってこれ!」
戩華はずかずかと、庭に降りて千代に近づく。
くるくる回り目が回ったぁと倒れる千代をのぞき込む。
「おい、名を何という」
「ひめさまぁ~一緒に遊びましょ」
にへらと微笑み起き上がろうと、するが手に力が入らずおかしくて笑ってしまう。
壊れていく身体はどうにもならないらしい。
「姫様おーい!」
「無視かお前は」
「全身雪まみれじゃな」
くすくす小さく笑う瑠花に千代は嬉し楽しくなる。