第10章 彩稼。
静蘭の言葉に蒼姫は涙をぐしっと拭う。
「覚えてます、私は生涯母に愛されてると実感するとは無いだろうと、私の母様は父様を愛するため、父様が望み出来てしまった私を愛さないと。そして⋯母様は、父様を幸せにしたあかつきには、消えると。」
「あぁ、そうだ」
「父様はきっとそれを読んでいたのですよ、なら私は私を選んだ父のため向かいます」
微笑む姿と、頑固な表情。
この数年で沢山学んで沢山成長した。
靴を登山用に履き替え、荷物をせっせこ詰める。
「劉輝お兄様⋯も、母様を忘れてしまっているのかしら⋯」
「さぁ⋯どうだろうね⋯例えそうなら私達の役目は重大だ」
蒼姫は目を輝かせて頷いていた。
目を閉じ下唇を噛む。
母はいつも、勝手だ。
けれど、確かにちゃんと愛してくれていた。
確かにちゃんと母だった。
確かに彼女は王のただ一人の妃だった。
蒼姫をちらりと見ててきぱきと荷造りをする姿に涙がこぼれそうになる。
あぁ、きっと瑠花様は知っていた。
これが。
母の願いだと。
知っていたに違いない。