第10章 彩稼。
二人の兄妹は、宿屋で文書を見て目を丸くする。
「せいにぃ⋯さま⋯これは⋯」
そう呟き絶句をしていた。
ごくりと、唾を飲み込む。
へにゃりと、座り込むと大粒の涙をボタボタ床に落としていた。
「父様が言っていたのはコレだったんだわ」
「先王が、何を言っていたんだ?」
静蘭は蒼姫をのぞき込む。
「私の旅の目的は⋯ただ、一つ。お母様の心を藍家のご当主様から返してもらうのが目的でした」
これでは⋯と絶句する。
この数年、当主に会うために彼方此方と、手を尽くしていたが全く会えず、宿屋で下働きをしながらせこせこ暮らしていた。
その当主から、問題の当主からの文書に腰を抜かす。
王都では不思議な事が起きてる。
どうやら妃、つまり紫蒼姫の母は栗花落という絶世の美女だと先王が言ったと。
私に会いたがっていると聞いたが誰の娘か。
二人もそんな噂のような話を聞いていなかった訳ではない。
だが、そんなデマ何処からと思ってはいた。ここ数年、前王妃は麗しく聡明だと評判を耳にしていた。
二人は千代の事だと思っていたが、口々に、呟かれるのは栗花落と言う名前だった。
静蘭は何かおかしいと感じていた。
蒼姫は震えながらたらりと流れる鼻水を啜っていた。
「行かなきゃ、兄様、せい兄様行かねばなりません!!!」
「あぁ、だが⋯」
「だかもしかしも危険だからも今日はなしです!!今から、目的を果たしに参ります」
「⋯⋯蒼姫、もし、父上の事付通りその物があったとして、父上はきっともう必要としていないだろう」
静蘭の言葉に顔をぐしゃりと歪めて抱きつく。
「そんな事、そんなこと言わないで!!静兄様⋯あのね、父様はね母様が⋯大好きでとてもとても愛してるの⋯朝から晩まで母様のそばにいるぐらい大好きなのよ」
父様には母様が必要なの。
その瞳は父に似ていて、どこか言葉に力を感じた。そんな妹が愛おしくて、あぁと頷く。この子を愛して愛して愛してやらねばならぬ、そう、母に誓った。
母の代わりに馬鹿のように愛してやろうと。
母と同じく、してもらったように。
微笑んで、頷く。
「でも、蒼姫。沢山の可能性を考えよう、もし、王都に戻り同じく母君を忘れたら?」
「っ⋯⋯忘れたくない⋯」
必死な瞳。
頭を撫でる。
「⋯⋯瑠花様の言葉を覚えてるか?」