第10章 彩稼。
死に場所を探して。
迎えを期待して。
微笑む。
たおやかな笑顔で。
おだやかな笑顔で。
手に持っていた輝く紫の石を日に当て口付ける。
「千代」
名前を呼ばれ振り返る。
幼子の様に千代は手を振りながら駆け寄る。
「姫様!」
犬の様に駆け寄るが座り込む彼女を抱きしめる。
「部屋に黙っておれんのか」
「はい!」
あまりにも勢いのいい返事に瑠花は苦笑いをする。
「のう、千代。お前は今何処にいるんだ」
「へ??」
「もう良いだろう?お前の戩華はとうの昔に死んでいる。それが悲しく、それが悔しく、それでも愛したかったのだろう?」
「⋯私の戩華は⋯?」
「何故お前は幸せになろうとせぬ」
「あぁ、だって、戩華の幸せは私の幸せですから!」
「⋯それはな、遠の昔に違ってしまったと気がついているはずじゃ」
千代は頭にはてなを浮かべていた。
彼女の宝箱には大小色とりどりの石がぎゅうぎゅうに入っていた。
それは、瑠花の愛するもの一欠片。
「何故じゃ、人でなくなってまで叶えたいのがそれか」
「はい、私は王様の一番の官吏ですから」
嬉しそうににヒヒと微笑むから、ぎゅっと抱きしめた。
白詰草が咲き誇るこの庭には誰も訪れる事はない。
彼女の世界。
これが、彼女が生きる世界となった。
初めに出会った彼女は、ただ。
戩華を愛していた。
当たり前の女の子だった。
ただ、死なれたくない、愛していたと。
人は変わる。
長く一緒に居たつもりなのに、気づけなかった。
こんなにも別人になるまで、気が付くことはなかった。
「姫様⋯暖かい」
「また、熱があるほれ、中に入り、侍女をあまり困らせるでない」
はい、と言う千代は緩やかに立ち上がり、とろとろと歩き出す。
寝たきりだった彼女がやっと歩けるようになり、起きていられるようになり、人間らしく外を、太陽を求めるようになった。
元王は城を去り隠居生活をしていると巷ではもちきりだった。
それも、この場所までは届くことは無い。
千代の為の家。
呪詛が彼女に悪戯をしないようにしないようにかき集めたここは小さな小さな彼女の聖地。